「お電話ありがとうございます。EOS、A支店の桐島がお受け致します。」
わたしが電話に出ると、電話の向こうからは「マツシタダイニングの鈴木です。お世話になっております。」と言う男性の声が聞こえてきた。
「お世話になっております。」
「ダイニング部門の深川さんは、いらっしゃいますか?」
「深川ですね、少々お待ちください。」
わたしはそう言うと保留ボタンを押し、パソコン越しに向かい側に座る深川さんを覗き込むと、「深川さん、マツシタダイニングの鈴木さんからお電話です。」と声を掛けた。
しかし、深川さんはチラッとこちらを見ただけで何も言わず、再びパソコンを見始めた。
(え、無視?聞こえてなかったわけじゃないよね?)
そう思い、再び深川さんを呼んだのだが、深川さんはわたしの声に反応する事はなく、仕方なくわたしは再び電話に出ると、「申し訳ございません。深川は現在、席を外しております。」と伝えた。
「そうでしたか。それでは深川さんに伝えていただきたいんですけど、ご注文いただいていた客注のC-A15のステンレスボトル、廃盤の為に在庫がありませんでした、とお伝え願いますか?」
「客注品のC-A15のステンレスボトルが在庫なしですね。」
わたしは復唱しながらメモを取ると、「承知いたしました。深川に伝えておきます。」と言った。
「それでは、よろしくお願い致します。失礼いたします。」
「はい、失礼いたします。」
そう言って電話を切ると、わたしはデスクから立ち上がり、深川さんの傍まで行くと「深川さん。マツシタダイニングの鈴木さんからの伝言です。客注品が廃盤の為に在庫がないとの事で。」と言いながらメモした紙を手渡そうとした。
深川さんは無言のままわたしを見上げると、それからわたしが差し出すメモに視線を落とした。
「だから何?」
「えっ······?」
「だから、何でそれをわたしに言うの?」
深川さんの冷たい言葉に思考が止まってしまうわたし。
(何でって···深川さんへの伝言だし、ダイニングは深川さんの担当だからなのに······)
「深川さんに伝えてほしいと言われたので······」
わたしがそう言うと、深川さんはわざとらしく溜め息をつき「わたしが処理しろって事?面倒くさい、何でわたしが?」と言った。
わたしは、なぜ自分が深川さんに責められているのか理解出来ずにいたが、その威圧的な態度から自然と「すみません······」と謝っていた。
深川さんは仕方が無さそうにわたしからのメモを受け取ると、「今度からは自分で処理してね。」と言い、チッと舌打ちをして客注を承っていた店舗に電話を掛け始めた。
「すみません、よろしくお願いします。」
わたしはそう言って深川さんに頭を下げると、納得がいかないまま自分のデスクへと戻った。
(担当部門の事は、担当者がやる事になってるのに···何であんな事言われないといけないんだろう。)
そう思いながら、わたしは店舗に電話をする深川さんの「ごめんなさいね〜!廃盤になってた商品なのに、新人が確認もせずに発注書送っちゃったみたいで〜!」と言う声に苛立ちを感じた。
自分の確認ミスだというのに、まるでわたしがミスしたかのような言い回しだ。
わたしは苛立ちのせいで集中力が切れ、先程まで何の業務をしていたのかを忘れてしまいそうになったが、(今日は帰り、お酒買って帰ろう。)と自分に語りかけ、何とか落ち着かせようとしたのだった。



