そして、わたしは福永さんと共に社外へ出ると、会社近隣にあるパスタ店"クレイラ"へと入った。
"クレイラ"はわたしもお昼休憩時に何度か訪れた事がある、珈琲も美味しいパスタ店だ。
ダークブラウンの内装に落ち着いた雰囲気でBGMにはジャズが流れている。
既にランチ時の先客で溢れる店内は、食欲をそそるようなパスタや珈琲の良い香りが広がっており、福永さんとわたしは2人用のテーブル席へと案内された。
「ここのパスタ美味しいですよね。在り来りですけど、僕はいつもミートソーススパゲッティを頼むんですよ。」
そう言いながら福永さんはメニュー表をわたしが見やすいように開いてくれた。
わたしはメニューを見ながら「ミートも美味しいですよね。わたしはタラコと水菜のパスタがお気に入りなんです。」と言った。
「タラコと水菜のパスタは食べた事ないなぁ。今日はそれにしてみようかな。」
「是非、食べてみてください。じゃあ、わたしは···明太子のカルボナーラパスタにしてみようかな。」
「いいですね。食後には、カフェラテ頼みます?」
「はい、そうですね。」
メニューが決まると、福永さんは通りがかった店員に声を掛け、わたしの分の注文もしてくれた。
パスタが来るまでの待ち時間、案内時に店員が運んでくれた水を一口含み、おしぼりで手を拭いたわたしは、福永さんに朝のお礼を伝えた。
「朝はありがとうございました。深川さんとわたしの間に福永さんが入ってくれて助かりました。」
わたしがそう言うと、福永さんは「いえいえ。」と言いながらおしぼりで手を拭くと、「僕が"やらなくていい"って桐島さんを帰したので。きっと、桐島さんに何か言って来るだろうなと思ってましたから。」と言った。
「わたしがもっと上手くかわせるようになれればいいんですけど······」
「先輩相手では、なかなか難しいですよね。何かあれば、遠慮なく僕に言ってください。」
「ありがとうございます。」
そう会話を交わし、福永さんと他愛もない話をしたわたしは、運ばれて来たパスタを食べながら、久しぶりに独りじゃないランチを楽しんだ。
そしてランチを済ませ、休憩時間も終わりに近付き、会社に戻ったわたしたちは再び業務に戻る。
すると午後3時頃、社内に電話の音が鳴り響いた。
電話のディスプレイには、"マツシタダイニング"という取引先の社名が表示されており、本来であればダイニング部門担当の深川さんが電話対応するはずなのだが、深川さんは電話に出ようとせずパソコンを見つめたままだった。
その時、福永さんはミーティングの為に席を外しており、誰も出ようとしない電話を放置する事も出来ず、仕方なくわたしが電話を取ったのだった。



