初恋のジュリア


福永さんの登場に深川さんの嫌がらせから解放されたわたしは、各店舗からのゲーム予約の件数を集計する業務から始めた。
わたしはゲーム部門の担当をしており、毎週日曜日に各店舗でゲーム予約の件数をパソコンシステム上に入力してもらい、それを元に納品数を決定しているのだ。

それから、これから発売されるゲーム情報も確認し、売上が取れそうなタイトルをピックアップしていく。
その中でわたしは、ある一つのゲームタイトルに惹きつけられた。

(あっ、エバー·ファンタジーって······)

そのタイトルは、『エバー·ファンタジー リメイク』という、10年以上前に人気があったゲームのリメイク版だった。
わたしはそのゲームをプレイした事はないのだが、そのゲームには聞き覚えがあった。

それもそのはず···――――
そのゲーム『エバー·ファンタジー』は、ジュリアが当時ハマっていると言っていたゲームだからだ。

(このゲームが発売されたら、ジュリアは買うのかなぁ。)

そんな事を考えながら、わたしは"予約可能ゲーム一覧"に『エバー·ファンタジー リメイク』を追加した。

お昼休憩の時間が迫る12時前になると、わたしは最終確認をしてもらう為にゲームタイトルが新たに追加された"予約可能ゲーム一覧"を主任である福永さんの元へ持って行った。

「確認お願いします。」

そう言って"予約可能ゲーム一覧"を福永さんに渡すと、福永さんは上から順にゲームタイトルに目を通していく。
すると、福永さんはあるゲームタイトルを目にして「うわぁ、懐かしいなぁ!」と言った。

「このエバー·ファンタジーってゲーム、昔好きだったんですよ。リメイクされるんだぁ。」

嬉しそうな表情を浮かべ、テンションが上がる福永さん。
わたしはそんな福永さんに「そのゲームって、"ジュリア"っていうキャラクター出てきますか?」と訊いてみた。

福永さんは一覧から顔を上げこちらを向くと、「出てきますよ!桐島さん、このゲーム知ってるんですか?」と言った。

「あ、プレイはした事ないんですけど、知り合いが···その"ジュリア"っていうキャラクターが好きって言ってたのを思い出して。」
「そうなんですね!ジュリアは、主人公の初恋相手なんですよ。ジュリアが好きだなんて、目の付け所が良いなぁ。」

懐かしいゲームの話に心躍らせる福永さんを見て、(きっと、ジュリアも···福永さんみたいに嬉しそうに話すんだろうなぁ。)と想像してしまう。

すると、福永さんはハッとして事務所内の壁掛け時計に目をやると、「もうお昼休憩の時間ですね。」と言い、それから「桐島さん、一緒にランチ行きませんか?」とわたしを誘ってくれた。