2日間の休日もあっという間に過ぎ、またいつもの家と会社の往復をするだけの一週間が始まる。
自宅から徒歩15分先にある職場へと向かうわたしは、通勤ラッシュの時間帯でごった返す慌ただしい道のりを歩き、ショッピングモールを展開する企業"株式会社EOS"のA支社へと到着した。
複数の会社が入る10階建ての建物の8階までエレベーターで上り、第2事業部の事務所に入ったわたしは、既に出勤して来ていた社員の人たちに「おはようございます」と挨拶をしながら、窓際にある自分のデスクまで辿り着いた。
すると、就業時間前で私語をする人が多く、ガヤガヤした中から「ちょっと、桐島さん。」とわたしを呼ぶ声が聞こえた。
その声にわたしがふと顔を上げると、わたしの向かいのデスクに座る深川さんが立ち上がり、わたしのことを冷たい視線で見下ろしていた。
深川さんは今日も昭和を匂わす水色のアイシャドーに、ぽっちゃりしたボディーライトが分かる深緑色のニットとスキニーデニムを身に纏っていた。
「はい、おはようございます。」
わたしがそう言うと、深川さんは不機嫌そうな表情でわたしを睨み付け「先週頼んだ仕事はどうなったの?終わったの?」とドスの利いた低い声で言った。
「あの、それは······」
「もしかして、まだ出来てないの?終わるまで帰るなって言ったよね?」
「すみません······」
わたしが俯き気味に謝ると、深川さんは胸の前で腕を組み「本当、どうしようもないわね。前の支社では何年働いてたか知らないけど、ここでは新人なんだからね?」と嫌味たっぷりに言葉を発した。
すると、そこへ「おはようございます。」と仲裁に入るように穏やかな声が現れ、その声の方へと視線を向けると、そこには出社して来たばかりの福永さんの姿があった。
深川さんは福永さんの登場に動揺を見せると、さっきまでの不機嫌そうな表情から一変して笑顔を作り、「あ、福永く〜ん!おはようございますぅ!」と纏わりつくような猫撫で声で挨拶をした。
「先週、桐島さんに仕事を頼んでいたのは深川さんだったんですね。急ぎの仕事でもないのに、桐島さんが一人で残業していたので、僕が帰るように言ったんですよ。」
「えっ!いやだなぁ〜!わたし、そんなに急かすような事言ってないですよぉ!時間ある時にやっておいてね〜って言っただけなのにぃ!」
明らかにわたしと話す時と態度が違う深川さんに、呆れながら引いてしまうわたし。
福永さんは「あんな昔の資料出して来て、データ化なんてする必要ないですよ。桐島さんに負担がかかるような事はしないでくださいね。」と嫌味に聞こえないよう穏やかな口調で言い、それから「それじゃあ、もう就業時間になるので、今日もよろしくお願いしますね。」と言って、その場から離れて行った。
深川さんは「はぁい、すいませ〜ん!」と50歳とは思えぬブリッコ口調で言いながら、脇を締めて両腕を前に出し、胸を寄せるような仕草をしていた。



