初恋のジュリア


―――時は流れ、わたしは無事に高校生へとなった。

14歳のあの冬から、わたしはジュリアを忘れた事はない。
入学式を終え、バス通学になったわたしは、その合間にほんの少しの期待を抱きながら"菜の花公園"へと訪れた。

菜の花公園は、小さい子どもを遊ばせるような公園というより、散歩やウォーキング目的で利用される事が多い公園だ。

しかし、いくら待ってもジュリアらしき人物が姿を現す事はなかった。

その日から、時間を見つけては菜の花公園に足を運んだわたしだったが、明確な日時を約束している訳でもなく、ただ"高校生になったら"と"待ち合わせ場所は菜の花公園"という事しか定かではない為、ジュリアとの対面が叶うはずもなかったのだ。

4月も終わるゴールデンウィーク前、黄色やオレンジ色の花が咲き乱れる菜の花公園でわたしは一人、高い場所から街並みを眺めると、橙に染まる夕焼け空の下、虚しい気持ちを押し殺しながらジュリアとの"再会"を諦め、初恋に幕を下ろしたのだった···――――



(今頃、何してるんだろうなぁ。)

久しぶりに手にしたジュリアからの手紙を懐かしんだわたしは、ジュリアがどんな人物だったのかを想像しながら、寝室のベッド横に置いてある白いサイドテーブルの引き出しにその手紙を大切に保管した。

気が付けば、つい先程まで光を差していた窓の外は日が落ちて、せっかちに夜を迎える準備をしているようだった。

しばらく寝室に置き去りになっていた段ボールたちをやっと片付け終えたわたしは、洗濯完了の音に呼ばれると、脱衣所にあるポールに洗濯物を干していった。

(やっと終わった。)

一息ついたわたしはリビングに向かい、ソファーに身を委ねるように倒れ込む。
そして顔だけを横に向かせ、対面キッチンのカウンターに置いてあるデジタル時計にふと目をやる。
時刻は"19時13分"を表示しており、過ぎる時間の早さにわたしは「19時かぁ······」と独り言を零した。

(今日はちゃんと湯船に浸からなきゃ。)

そう思いながらも、わたしは少しの間、ソファーの上で動く事が出来ずに目を閉じた。

久しぶりに"あの手紙"に触れて、再び思い起こされたジュリアへの想い。
片想いを諦め、忘れていたと思いたかったが、それはただわたしが忘れようとしていただけだったのだと実感してしまう。

しかし、ジュリアを想ったところで、どこに居るのかも分からない。

わたしと同じ年齢だったジュリアも、わたしと同じ27歳になっているはずだ。
この年齢になれば、他に恋人が居ても、結婚して子どもがいてもおかしくはない。

会った事はないが、鮮明に覚えているあの頃のジュリアとのやり取りは、わたしにとって大切な思い出となっていた。

『誕生日おめでとう!』

久しく誕生日を祝われていなかったわたしにジュリアがくれた言葉のプレゼント。
嬉しかった。毎年虚しかった自分の誕生日が、あの日だけはわたしの中だけで花開いていたのだった。