そして、とうとう冬休みも終盤になり、始業式が近付いた時。
わたしはジュリアに"学校が始まると、なかなかログインする事が出来ない"事を話をした。
理由はもちろん、スマホを持っていない事と、リビングに置いてあるパソコンに触れる時間が制限されているからだ。
するとジュリアは、『手紙のやり取りをしない?』と話を持ち掛けてくれた。
そのジュリアの提案をきっかけにわたしたちは、ネット上でのやり取りから手紙交換へとシフトする事にした。
最初に手紙を書いてくれたのは、ジュリアだった。
その手紙が届けられた時、丁度郵便局員と出会し手紙を受け取ったわたしは、屋根裏に駆け上がるとすぐにジュリアからの水色の手紙を開封した。
そこには、お世辞にも綺麗とは言えない男の子らしい文字が並んでおり、自分の為に書かれた2枚分の手紙にわたしは胸をときめかせた。
『高校生になったら、会いませんか?』
最後に書かれていたジュリアからの言葉に、わたしの頬が熱くなり赤く染まっていくのを感じた。
待ち合わせ場所には、市内にある"菜の花公園"が指定されていた。
(すぐに返事を書かなきゃ。)
そう思ったのだが、封筒をよく見てみると、差出人の欄に"ジュリア"と名前が書かれていただけで住所の記載はなかった。
"Calm"を辞める際に住所を教えたのは、わたしだけ。
ジュリアからの手紙が届けば、住所が分かると思い、彼から住所は聞いていなかったのだ。
(これじゃあ、手紙が出せない······)
そう思い、わたしはかなり焦った。
このままジュリアと連絡がつかなくなってしまうかもしれない不安と、手紙を無視したと思われたくない心配から、落ち着いていられなかった。
その焦りから、わたしはもうすぐ桐島の母が帰宅するのを知りながら、リビングのパソコンを開いた。
"Calm"を開けば、ジュリアがいるかもしれないという期待を持ちながら、わたしは"Calm"に入り込み、必死にジュリアを探した。
しかし、そのタイミングで玄関のドアが開き、閉まる音がした。
(ヤバい、お母さん帰って来ちゃった···!)
慌てたわたしは、急いでパソコンを閉じようとしたのだが、時はすでに遅し···―――
パソコンを弄っている姿を桐島の母に見られてしまい、パソコンは桐島夫妻の寝室へと移動されてしまった。
もちろん、勝手にパソコンを触っていた事に激怒され、それから一週間は夕飯を与えてもらえなかった。
お腹は空き、貧血から具合も良くなかったが、そんな事よりも気になったのはジュリアの事だった。
わたしからの手紙の返信がなく、ジュリアを待たせてしまっているかもしれない。
返信がない事に変な誤解をさせてしまっているかもしれない。
しかし、何の手立てもないわたしは、ただ時が過ぎていくのを待ち、高校生になってから"菜の花公園"へ行くという方法しか思い浮かばないのだった。



