「ごちそうさまでした」
「お、やっと食べ終わった」
私が食べ終わったのを見計らってスマホをいじっていた詩織が話しかけてきた。
「恵莉奈にしては食べるの遅かったね。本当に具合大丈夫?」
「うん、全然問題ないと思うんだけど。何でだろうね」
「不思議なこともあるんだね」
私にだって急に食欲がなくなった原因がわからない。
食べている姿が無愛想と言われても食べることは好きなのに。
視線を横に移すと仙崎さんの姿が見えなくなっていた。
私が食べている間にいなくなってしまったんだ。
「恵莉奈も食べ終わったし、お皿片付けちゃうか」
調理師さんの負担を減らすために社食のお皿は軽くお湯で流すことになっている。
実はこの洗い場が結構混んだりするので、詩織と食べるときは食後すぐにお皿を洗うことが多いんだよね。
ラッキー、ちょうど二人分空いているじゃん。
三つある蛇口のちょうど真ん中を陣取る。
先に洗い物をしていた隣の人を見たところで一瞬、手が止まってしまった。
仙崎さんがちょうどお皿を洗っていた。
見た目はピシッとしているのに皿洗いの仕草がぎこちない。しかもスポンジを泡だらけにして一生懸命洗っている。
仙崎さんは社食のルールを知らないのだ。会社案内をしたときにちゃんと教えてあげるべきだった。
これは総務部としての私の仕事だよね。
「あの、仙崎さん。お疲れさまです」
仕事だと思ったら意外とすんなりと声が出た。
「ああ、東雲さん。お疲れさまです」
やった。仙崎さんに名前を覚えてもらえてた。
「ごめんなさい。私、ここのルール教えてなかったですよね」
「天野さんから教えてもらいましたので。大丈夫ですよ」
天野さんが教えてたのか。私の出番ないじゃん。
「本社の社食美味しいですね。毎日食べられて羨ましいです」
「はい、そうですよね」
うわ、自分でもびっくりするくらい返しが壊滅的に下手っ! コミュ障かよ、私。
「恵莉奈、まだ終わらないの?」
「ごめん、先戻ってて」
まだ仙崎さんも皿を洗い終わってなかった。
私より先に洗っていたからかなり時間がかかっている。
本当に天野さんは仙崎さんに正しいやり方を教えたのだろうか。
それとも仙崎さんってめちゃくしちゃ綺麗好きだったりして。
私の方が早く皿洗いが終わってしまった。
仙崎さんが終わるまで待っていたいくらいだったけど後ろも詰まっているし早めに退散しないとな。
それじゃあお先に失礼します。
そう仙崎さんに声をかけたかった。その一言が言えなかった。
無言で後ろを振り返り洗い場を後にする。
めんどくさいと思っていた皿洗いなのに今日は何だか名残惜しい。
「あの人、誰? 恵莉奈の知り合い?」
ランチが終わってからも私と詩織は休憩時間が終わるまで食堂に残っている。
会社の食堂はショッピングモールのフードコートと違い、食後に席を離れなくても怒られない。
仙崎さんは皿洗いが終わるとすぐに食堂を離れた。
その姿を確認してからなのか、詩織が不意に聞いてきた。
「札幌から研修に来ている仙崎さんだよ。朝礼の時に挨拶してたでしょ?」
「あー、あの人か」
もう、詩織ったら興味のないことは全然覚えてないんだから。
「さっきね、私が会社の案内をしたの」
慌ててすぐに付け足すように言う。
札幌から来た人と理由もないのに挨拶してたら変に思われるもんね。
「それで恵莉奈は知ってたっけわけね」
「そうそう、仕事で関わりないと話しかけれないよ」
言いながら会社案内を私に振ってくれた天野さんに心の中で手を合わせた。
「じゃあ明後日から研修に来るのはあの人か」
詩織が何の気なしに呟いた言葉にハッとした。
仙崎さんも詩織も同じ営業部。研修の後半は本社の営業部と一緒のはずだ。
いいなー、詩織。仙崎さんの研修と一緒になれるなんて。
私なんて会社案内が最初で最後の接点かもしれないってのに。
「あの仙崎って人。なんかさ、パッとしない人だよね」
窓の方を見ながら誰に言うでもなく詩織がぼんやりと呟いた。
「お、やっと食べ終わった」
私が食べ終わったのを見計らってスマホをいじっていた詩織が話しかけてきた。
「恵莉奈にしては食べるの遅かったね。本当に具合大丈夫?」
「うん、全然問題ないと思うんだけど。何でだろうね」
「不思議なこともあるんだね」
私にだって急に食欲がなくなった原因がわからない。
食べている姿が無愛想と言われても食べることは好きなのに。
視線を横に移すと仙崎さんの姿が見えなくなっていた。
私が食べている間にいなくなってしまったんだ。
「恵莉奈も食べ終わったし、お皿片付けちゃうか」
調理師さんの負担を減らすために社食のお皿は軽くお湯で流すことになっている。
実はこの洗い場が結構混んだりするので、詩織と食べるときは食後すぐにお皿を洗うことが多いんだよね。
ラッキー、ちょうど二人分空いているじゃん。
三つある蛇口のちょうど真ん中を陣取る。
先に洗い物をしていた隣の人を見たところで一瞬、手が止まってしまった。
仙崎さんがちょうどお皿を洗っていた。
見た目はピシッとしているのに皿洗いの仕草がぎこちない。しかもスポンジを泡だらけにして一生懸命洗っている。
仙崎さんは社食のルールを知らないのだ。会社案内をしたときにちゃんと教えてあげるべきだった。
これは総務部としての私の仕事だよね。
「あの、仙崎さん。お疲れさまです」
仕事だと思ったら意外とすんなりと声が出た。
「ああ、東雲さん。お疲れさまです」
やった。仙崎さんに名前を覚えてもらえてた。
「ごめんなさい。私、ここのルール教えてなかったですよね」
「天野さんから教えてもらいましたので。大丈夫ですよ」
天野さんが教えてたのか。私の出番ないじゃん。
「本社の社食美味しいですね。毎日食べられて羨ましいです」
「はい、そうですよね」
うわ、自分でもびっくりするくらい返しが壊滅的に下手っ! コミュ障かよ、私。
「恵莉奈、まだ終わらないの?」
「ごめん、先戻ってて」
まだ仙崎さんも皿を洗い終わってなかった。
私より先に洗っていたからかなり時間がかかっている。
本当に天野さんは仙崎さんに正しいやり方を教えたのだろうか。
それとも仙崎さんってめちゃくしちゃ綺麗好きだったりして。
私の方が早く皿洗いが終わってしまった。
仙崎さんが終わるまで待っていたいくらいだったけど後ろも詰まっているし早めに退散しないとな。
それじゃあお先に失礼します。
そう仙崎さんに声をかけたかった。その一言が言えなかった。
無言で後ろを振り返り洗い場を後にする。
めんどくさいと思っていた皿洗いなのに今日は何だか名残惜しい。
「あの人、誰? 恵莉奈の知り合い?」
ランチが終わってからも私と詩織は休憩時間が終わるまで食堂に残っている。
会社の食堂はショッピングモールのフードコートと違い、食後に席を離れなくても怒られない。
仙崎さんは皿洗いが終わるとすぐに食堂を離れた。
その姿を確認してからなのか、詩織が不意に聞いてきた。
「札幌から研修に来ている仙崎さんだよ。朝礼の時に挨拶してたでしょ?」
「あー、あの人か」
もう、詩織ったら興味のないことは全然覚えてないんだから。
「さっきね、私が会社の案内をしたの」
慌ててすぐに付け足すように言う。
札幌から来た人と理由もないのに挨拶してたら変に思われるもんね。
「それで恵莉奈は知ってたっけわけね」
「そうそう、仕事で関わりないと話しかけれないよ」
言いながら会社案内を私に振ってくれた天野さんに心の中で手を合わせた。
「じゃあ明後日から研修に来るのはあの人か」
詩織が何の気なしに呟いた言葉にハッとした。
仙崎さんも詩織も同じ営業部。研修の後半は本社の営業部と一緒のはずだ。
いいなー、詩織。仙崎さんの研修と一緒になれるなんて。
私なんて会社案内が最初で最後の接点かもしれないってのに。
「あの仙崎って人。なんかさ、パッとしない人だよね」
窓の方を見ながら誰に言うでもなく詩織がぼんやりと呟いた。



