研修期間は恋の予感

仙崎さんが札幌に戻って二週間ほどが過ぎた。

まだ私の中にあの時の一週間の時間が色濃く残っている。

私が自分から勇気を持って接客した初めてのお客さん。
あの時のお客さんが仙崎さんだったなんて。

運命って呼ばれているものは本当にあるのかもしれない。

仙崎さんは私のことを覚えているのかな。
 
もしも運命が本当にあるんだったら、私と仙崎さんはまた会うことができたりして。

なんて思っていても現実は厳しいってことくらいわかっている。

東京と札幌じゃ物理的に距離が離れ過ぎている。

この二つの距離を飛び越えるなんて超常的な力でもないと不可能だ。

それこそ、運命の赤い糸のような特別な力でもないと。

プルルルとデスクの固定が鳴る。
外線からの番号だ。

会社の代表番号宛て。
暗黙の了解でこういう時は総務部が出ることになっている。

電話に出るのはあまり得意ではない。
でもこれも仕事だからしぶしぶ受話器を取る。

「あの、すいません。札幌で健康食品を販売しているものなのですが。ネットを見てお電話させていただきまして」

小売店からの営業の電話だ。食品メーカーだからこういう電話はよくかかってくる。

こういう電話は営業に回す。
ただ札幌のお店となると話は変わってくる。

「こちらは東京にある本社でございます。札幌にも支社がございますのでそちらの担当の者にお繋ぎさせていただいてもよろしいでしょうか」

「札幌にもあるんですか。それは助かります」

一度、保留ボタンを押して札幌の内線コードにかける。

まだまだ札幌に支社がある認知度はそんなに高くないんだよな。
札幌の営業にも頑張ってもらわないとね。

電話が札幌につながった。

「お疲れさまです。東京の総務、東雲です」

「東雲さん?」

電話越しの声を聞いて心臓がキュッと跳ねる。

「札幌の仙崎です。何かありましたか?」

二つの距離を一瞬で飛び越える超常的な力。
目の前にあったじゃないか。

「あの札幌にある食品販売店の方からお電話がございまして」

「わかりました。私の方で対応いたします」

仙崎さんの頼もしい感じが電話を通しても伝わってくる。

顔は見えなくても仙崎さんと一緒に働いているんだ。

「それでは繋ぎますね」

電話を引き継ぎ、私の仕事は終了。

ふうっと大きく息を吐く。

ほんの数秒の電話のやりとり。
それだけでも仙崎さんの声を聞いて体温が上がる。

こんなにも簡単に仙崎さんとつながることができた。

例え働く場所が離れていても私と仙崎さんは同じ会社で働いている仲間なんだ。

他人だった私たちが店員とお客さんとして出会い、そして同じ会社の仲間になる。

私と仙崎さんの二人の距離は近づいている。

まるで運命の赤い糸のように。
私たちは引き寄せられている。

東京と札幌の距離を言い訳にすることはできないね。

社内用のメッセージアプリを開く。
電話を受け取った者としてさっきの仕事がどうなったか気になるもんね。

仙崎さんにメッセージを送る。

これも大事な仕事。
けど今度は仕事以外でも仙崎さんと近づきたいな。

すぐに既読のマークがつく。
東京と札幌だって一瞬だ。

一歩ずつでいい。一歩ずつ進めばいいんだ。

たった数分間の積み重ねが人生を変えていく。

仙崎さんから返信がくる。
私たちの時間がこれからまた動き出すんだ。