研修期間は恋の予感

たまたま友人に連れて行かれた健康食品の直営店。
俺は健康食品に特段興味があるわけでもなく、値段もなかなかするなと内心思っていた。

友人の勧めもあって一つくらい買ってみようと思った時に彼女に声をかけられた。

店員である彼女にとって、お客さんに声をかけるのはただの仕事の一つだろう。

俺だっていい年の大人だ。そんなことわかっている。
それでも声をかけてもらえたのは嬉しかったし、彼女の熱意ある説明を聞いて食べてみたいと思える商品にも見つかった。

そして、その商品がめちゃくちゃ美味しかった。

俺はそこからここの商品のファンになり、気がつけば紹介してくれた友人よりも購入頻度は高くなっていたほどだった。

体にいいのはもちろん味も良いから食べていると元気になる。
それにあの店の雰囲気を思い出し、働いている人たちの商品に対する強い思いも好印象だった。

とはいえ、毎回お店に行けるというわけでもなくほとんどは通販で買っていた。
人気のインターネットモールにも公式ショップが出店していて、ポイントもつくからそこでよく買っていたのだ。

それに男一人で健康ショップに行くのは周りから浮いてしまって少し恥ずかしい。

そんな俺がここの会社で働く日が来るとは考えてもいなかったな。

三十代が目前に迫り転職を考えた。
当時、俺は小売業の会社で営業職をしていた。
お客さんに物を売る仕事に面白さを感じていたが、今度は自分達の商品を直接売りたいと思いメーカーでの転職を検討していた。

その時、求人サイトでここの会社を見つけたのだ。

東京の会社であることは知っていた。札幌にも支社がありそこで募集をかけていたのは予想外だ。

これも運命かもしれない。
そう思って俺はここに応募をした。

そして縁あって採用してもらえたというわけだ。

あの時、彼女がおすすめの商品を教えてくれなかったら俺はここの商品が好きになっていなかったかもしれない。

そしたらここの求人への応募もなかったかも。

あの時のたった数分間が俺の人生を変えてしまった。

もしあの時の彼女に会えるのなら感謝の気持ちを伝えたい。そう思っていた。

入社してから札幌の直営店にも挨拶に行った。
そこに彼女の姿はもうなかった。

彼女はもうやめてしまったのかもしれない。
そんな不安もあったのだが、毎年新卒が研修でここの店舗で働くことを知った。

だったら今の彼女は本社で働いているかも。
そんな期待が膨らんできた。