シンデレラは午後8時にヒールを折る

 ――半年後。
 悠斗は会社の誰にも話すことなく、ひっそりとひとりで開発を進めていたゲームのリリースボタンを押した。
 社内には「自宅待機中に知人と趣味で作った作品」として報告し、あくまでも個人の作品であることを主張した。

 リリース直後から、綾香の企画した新しいコンセプトのゲームは中高生に話題になり、SNSで拡散されていく。
 悠斗のゲームはあっという間に爆発的なヒットを記録した。

 そしてそのヒットの陰に埋もれたのはライバル会社のゲーム。
 綾香の企画書を真似して作ったあのゲームだ。

 リリース前はライバル会社のゲームを持ち上げていたゲーム雑誌は、悠斗のゲームの方が売れそうだと思った瞬間、スッと引いた。
 雑誌もメディアも悠斗のゲームばかり。
 さらに配給元がゲーム会社ではなく個人であることが話題になり、あっという間にライバル会社のゲームは話題にすら上がらなくなった。

「綾香はゲームを見てくれただろうか」
 ゲーム制作者名はA&Y。綾香と悠斗だ。
 いつになったら綾香に連絡することを許されるのだろうか。
 ずっと「調査中」と言われ、処分保留にされたまま、すでに半年以上。

 綾香は元気だろうか?
 無理をしていないだろうか?
 会社でツラい思いをしていないだろうか?

 ――会いたい。

 悠斗は設計を書き込みすぎてボロボロになった綾香の企画書を眺めながら目を伏せた。

    ◇
 
「野々山って、担当になるはずだった?」
「そうです。申し訳ありませんでした」
 8ヶ月ぶりに会社に出社するように命じられた悠斗は、会議室で綾香の上司に謝罪された。
 メディアというのはとても優秀で、社内調査では明らかにならなかった犯人をあっさりと突き止めてくれたのだ。
 
「野々山はとてもゲーム好きで、佐藤の企画書を見た時にこれは売れると思い、自分の転職を条件に企画書を横流ししたと」
 野々山は3ケ月前にライバル会社に転職したと綾香の上司は調査書を見せながら説明した。

「では綾香は」
「えぇ。彼女は無実です。彼女にも申し訳ないことを」
「なぜ今日来ていないのですか?」
 悠斗の問いに、綾香の上司は言葉を詰まらせる。
 
「彼女は辞めました。あの事件のすぐあとに」
「……え?」
 悠斗は急いでスマートフォンを取り出した。
 綾香にメッセージを送ろうとアプリを開くと、何行も消されたメッセージ履歴が目に入った。

「こんなに送ってくれていたのか……」