天使と悪魔~私、ヤクザの愛人になりました~

天を抱いて寝たら頭の中がすっきりした気がした。背徳感を楽しめたことより、1人きりの夜じゃなかったことが嬉しかったのかもしれない。


「光、お前がこの時間に出てくるとは珍しいな。そんなに大変だったのか?」
「心、話がある。少し2人きりになれないか?」


舎弟たちの前で俺が不貞を働いたことをいったら、示しがつかなくなる。だから心の部屋に押し入った。


「心……ずっと隠してたことがある。昨夜のことも、今までのことも……天と一緒にいたとき、俺は天を抱いてたんだ。」


咥えようとしていた煙草を落とす心。驚いて当たり前だよな。一番信頼していた相手が自分の女に手を出していたんだから……


「お前が望むなら組も抜ける。ただ、俺の想いを聞いてほしいんだ。心が天と出会って愛人契約を結んだ時、俺が出しゃばったのは、天のことが好きだったからなんだ。俺が天の面倒を見る立場になれれば独り占めできる。そんな浅はかな考えだった。でも……側にいればいるほど苦しくなったんだ。俺には、特別なんて言える存在はいない。どれだけ頑張っても心を越えることはできない。だから、天を奪い取りたかったのかもしれない。」


「俺は……お前の心に何一つ寄り添えてなかったんだな。」

「は…?」


「お前が天に好意を抱いていること、何一つ気づいていなかった。特別な存在を作れなかったのは、信じることが怖いからだろ?信じて裏切られたら立ち直れなくなる。それなら最初から信じない方がいい。お前の考え方はこういうものだろ?」

「家を出たとき、俺はもう何もかもから解放されたんだって思ってた。何にも縛られない、自分で人生を好きに生きていける。でも現実は違った。叶わないことばかり、幸せなんて所詮束の間のもの。愛人を作っても何もない……0を集めてもずっと0のままだ。心の中は空っぽで闇はどこまでも奥深くて……ただただ堕ちていく。そこに現れた光が天だったんだ。善良で穢れのない人間。人のためと自分自身を犠牲にする正直で優しい人間。俺はずっとそういう存在が欲しかったんだ。俺が何も持っていなくても手を握ってくれるような……側にいてくれるような存在が欲しかった……。おかえりって言ってくれる存在が欲しかった。天が……欲しかった。」



やっとわかった。俺が天に近づきたかった理由。親に甘えられなかったこと。自分で抱え込まなければいけなかったこと。その辛さに押しつぶされそうになった俺の背中をさすってくれる存在。屈託のない笑顔で俺のことを心配してくれる存在。




ずっとずっと……欲しかった。



「光……今回のことでお前に望むものは何もない。ただ、これまで通り俺に……亜魔野組に尽くせ。信頼しているお前だから俺は期待をしている。ただ、それが今までお前にとって重荷になっていたんだな。俺が期待をしているのは、光なら俺の理想を超えると思っているからだ。甘えたいなら天に甘えろ。俺はお前に天を渡す気はない。だがな、天は亜魔野組の女になったんだ。つまり、お前にとっても家族なんだ。俺には甘えにくいだろうから、天にもたれかかって頼ることも覚えろ。」




「心……いつからそんなに優しくなったんだよ……。」

「きっと……天の影響だ。」