過去で君に恋をした~32歳で死ぬ君を救うために

和解から2週間後。
凛は、小さなオフィスの中にいた。
駅から徒歩10分のビルの3階。
20平方メートルほどの、小さな部屋。
でも、ここが凛たちの新しい拠点だった。
「薬害患者支援センター」
ドアには、そう書かれたプレートが掲げられている。
凛と悠真が、正式に設立した団体。
エクセリア製薬からの和解金の一部を使って、借りた事務所だ。
部屋の中には、机が二つ。
椅子が四つ。
小さな本棚。
それだけの、シンプルな空間。
でも、凛にとっては、大切な場所だった。
凛は、机の上に広げられた資料を整理していた。
患者さんたちからの相談記録。
医療機関への問い合わせリスト。
製薬会社への要望書の下書き。
やることは、山積みだった。
悠真も、隣の机で同じように資料を整理している。
二人とも、黙々と作業を続けていた。
窓の外からは、街の音が聞こえてくる。
車の走る音。
人々の話し声。
普通の日常。
でも、凛たちの日常は、まだ始まったばかりだった。
「ふう」
悠真が、ため息をついた。
凛は、顔を上げた。
「疲れましたか」
「少し」
悠真は、微笑んだ。
「でも、いい疲れです」
凛も、微笑んだ。
「そうですね」
二人の顔には、疲労の色が浮かんでいた。
目の下には、うっすらとクマができている。
でも、その表情は、以前とは違っていた。
充実している。
生き生きとしている。
希望がある。
悠真は、コーヒーを淹れに立ち上がった。
小さなキッチンスペース。
電気ポットで、お湯を沸かす。
インスタントコーヒーを、二つのマグカップに入れる。
お湯を注ぐ。
甘い香りが、部屋に広がった。
悠真は、一つを凛に渡した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
凛は、マグカップを受け取った。
温かい。
二人は、少しの間、コーヒーを飲みながら休憩した。
「水瀬さん」
悠真が、口を開いた。
「はい」
「やっと、スタートラインに立てましたね」
悠真の声は、穏やかだった。
凛は、頷いた。
「本当に」
凛は、部屋を見回した。
小さな事務所。
でも、ここから始まる。
患者さんたちを支える活動が。
真実を守り続ける活動が。
「長い戦いでした」
凛は、コーヒーを一口飲んだ。
「でも、これからも戦いは続きます」
悠真は、凛を見た。
「はい。でも、もう一人じゃありません」
凛は、悠真を見た。
「そうですね。一緒に、頑張りましょう」
二人は、微笑み合った。
その時、ドアがノックされた。
凛は、顔を上げた。
「はい、どうぞ」
ドアが開いた。
入ってきたのは、佐々木だった。
「こんにちは」
佐々木は、少し恥ずかしそうに笑った。
「お邪魔します」
凛は、立ち上がった。
「佐々木さん。いらっしゃい」
佐々木は、部屋の中に入った。
小さな事務所を、見回す。
「ここが、新しい拠点ですか」
「はい」
凛は、頷いた。
「まだ、何もありませんが」
「いえ、十分です」
佐々木は、微笑んだ。
「大切なのは、場所じゃなくて、志ですから」
悠真も、立ち上がって佐々木に挨拶した。
「いらっしゃい。コーヒー、いかがですか」
「ありがとうございます」
佐々木は、椅子に座った。
悠真が、コーヒーを淹れる。
三人は、小さなテーブルを囲んで座った。
「佐々木さん」
凛が、口を開いた。
「今日は、どうされたんですか」
佐々木は、コーヒーカップを両手で包んだ。
「実は、お願いがあって来ました」
凛と悠真は、佐々木を見た。
佐々木は、少し躊躇した。
それから、言った。
「僕も、この団体に参加させてもらえませんか」
凛は、驚いた。
「え……」
「会社は、辞めました」
佐々木は、静かに言った。
「証言した後、いられなくなって」
凛は、胸が痛んだ。
「佐々木さん……」
「いえ、後悔はしていません」
佐々木は、首を振った。
「むしろ、すっきりしました」
佐々木は、凛を見た。
「でも、これで終わりにしたくないんです。償いたいんです」
凛は、佐々木の目を見た。
真剣な目。
本気だ。
「僕にも、できることがあるはずです」
佐々木の声は、強かった。
「患者さんたちのために。真実のために」
凛は、悠真を見た。
悠真も、凛を見た。
二人は、無言で頷き合った。
凛は、佐々木を見た。
「もちろんです。ぜひ、一緒にお願いします」
佐々木の顔が、明るくなった。
「本当ですか」
「はい」
凛は、微笑んだ。
「佐々木さんの力が、必要です」
佐々木は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
悠真も、微笑んだ。
「これから、よろしくお願いします」
三人は、コーヒーを飲みながら、今後の活動計画を話し合った。
どんな支援が必要か。
どの医療機関と連携するか。
どうやって資金を集めるか。
一つ一つ、丁寧に話し合っていった。
佐々木は、広報の経験を活かして、メディア対応を担当することになった。
悠真は、医療の専門家として、患者さんたちの相談に乗る。
凛は、全体の調整役として、団体を運営する。
それぞれの役割が、決まっていった。
「大変な道のりになりますね」
佐々木が、言った。
「はい」
凛は、頷いた。
「でも、やり遂げます」
悠真も、頷いた。
「三人なら、できます」
三人は、手を重ねた。
小さな手。
でも、その手には、強い意志が込められていた。
かつて、敵だった会社。
その会社の社員だった佐々木。
今は、仲間だ。
共に戦う、仲間だ。
凛は、不思議な気持ちだった。
人生とは、わからないものだ。
こんな形で、佐々木と一緒に働くことになるなんて。
でも、それが嬉しかった。
数日後の午後、凛は事務所で資料を整理していた。
悠真は、患者さんとの面談で外出している。
佐々木は、メディア向けの資料を作成している。
静かな午後。
その時、ドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
凛は、顔を上げた。
ドアが開いた。
入ってきたのは、母だった。
「お母さん」
凛は、驚いて立ち上がった。
「凛」
母は、微笑んだ。
「忙しいところ、ごめんなさいね」
「ううん、大丈夫」
凛は、母を迎え入れた。
「どうぞ、入って」
母は、事務所の中に入った。
小さな部屋を、見回す。
「ここが、あなたの事務所なのね」
「うん。まだ、何もないけど」
凛は、少し恥ずかしそうに言った。
母は、優しく微笑んだ。
「素敵よ。凛らしい場所だわ」
凛は、母を椅子に座らせた。
お茶を淹れる。
母に渡す。
「ありがとう」
母は、お茶を一口飲んだ。
それから、凛を見た。
「凛。本当に、よく頑張ったわね」
母の声は、優しかった。
凛は、少し照れくさそうに笑った。
「まだ、始まったばかりだよ」
「それでも」
母は、凛の手を取った。
「あなたは、正しいことをした。そして、最後までやり遂げた」
母の目には、涙が浮かんでいた。
「お母さんは、あなたを誇りに思うわ」
凛の目にも、涙が溢れてきた。
「お母さん……」
母は、凛を抱きしめた。
強く。
温かく。
「よく頑張ったわね。本当に」
凛は、母の胸で泣いた。
嬉しい涙。
安心の涙。
母に、認めてもらえた。
それが、何よりも嬉しかった。
涙を拭う。
「ごめん。泣いちゃった」
「いいのよ」
母は、優しく微笑んだ。
「泣きたい時は、泣けばいい」
その時、ドアが開いた。
悠真が、戻ってきた。
「ただいま戻りました」
悠真は、部屋に入って、母に気づいた。
「あ……」
凛は、立ち上がった。
「お母さん、紹介するね」
凛は、悠真を見た。
「この人が、宮下悠真さん。私を、ずっと支えてくれた人」
母は、悠真を見た。
悠真は、少し緊張した様子で頭を下げた。
「はじめまして。宮下です」
母は、立ち上がって、悠真に近づいた。
そして、悠真の手を取った。
「凛が、いつもお世話になっています」
母の声は、温かかった。
「こちらこそ。水瀬さんには、たくさん助けてもらいました」
悠真は、恥ずかしそうに笑った。
母は、悠真をじっと見た。
それから、微笑んだ。
「娘を、よろしくお願いしますね」
その言葉に、凛は顔を赤くした。
「お、お母さん」
悠真も、顔を赤くしている。
「は、はい。よろしくお願いします」
母は、満足そうに笑った。
三人は、しばらくお茶を飲みながら話をした。
母は、凛の子供の頃の話をした。
悠真は、興味深そうに聞いている。
凛は、少し恥ずかしかったが、嬉しかった。
母と悠真が、仲良く話している。
それが、とても嬉しかった。
母が帰る時、凛は玄関まで見送った。
「お母さん、ありがとう。来てくれて」
「こちらこそ。素敵な場所を見せてくれて」
母は、凛の頬に手を当てた。
「凛。あなたは、強い子ね」
「お母さんがいてくれたから」
凛は、母の手に自分の手を重ねた。
「お母さんが、ずっと支えてくれたから」
母は、涙ぐんだ。
「これから、幸せになってね」
「うん」
凛は、頷いた。
「お母さんも、元気でいてね」
「ええ。約束するわ」
母は、凛を抱きしめた。
最後に、もう一度。
それから、エレベーターに乗って去っていった。
凛は、事務所に戻った。
悠真が、待っていた。
「お母様、素敵な方ですね」
悠真は、微笑んだ。
「うん」
凛も、微笑んだ。
「自慢のお母さん」
二人は、また仕事に戻った。
でも、凛の心は、温かかった。
母に、認めてもらえた。
悠真と、一緒にいられる。
佐々木も、仲間になった。
患者さんたちを、支えられる。
全てが、うまくいっている。
まだ、始まったばかり。
これから、困難もあるだろう。
でも、凛には、乗り越えられる気がした。
一人じゃないから。
大切な人たちが、そばにいるから。
凛は、窓の外を見た。
夕焼けが、空を染めている。
茜色の、美しい空。
新しい一日の、終わり。
そして、新しい人生の、始まり。
凛は、深呼吸をした。
そして、また仕事に戻った。
やるべきことは、たくさんある。
でも、一歩ずつ、進んでいく。
前を向いて。
希望を持って。
凛の新しい人生が、始まっていた。

母が帰った翌日、悠真は定期検診のため病院へ行った。
凛も、一緒についていった。
待合室で、二人は並んで座っていた。
凛は、緊張していた。
今日の検診は、特別な意味がある。
悠真がメディアジールを服用していたこと。
そして、凛が取得したデータの中に、悠真の症例が含まれていたこと。
軽度の副作用だったが、放置すれば重篤化する可能性があった。
告発後、悠真はすぐにメディアジールの服用を中止した。
それから3ヶ月。
今日の検診で、その結果がわかる。
「宮下さん」
看護師が、名前を呼んだ。
悠真は、立ち上がった。
凛も、一緒に立ち上がろうとした。
「一緒に来てくれますか」
悠真が、凛に言った。
「はい」
凛は、頷いた。
二人は、診察室に入った。
医師が、パソコンの画面を見ながら説明を始めた。
「宮下先生、検査結果が出ました」
医師は、悠真を見た。
「肝機能、腎機能、ともに正常値に戻っています」
凛の心臓が、激しく鳴った。
「以前見られためまいや頭痛の症状も、完全に消失していますね」
医師は、画面をスクロールしながら続けた。
「メディアジールの服用を中止して正解でした。あのまま続けていたら、確実に重篤化していたでしょう」
凛は、息を呑んだ。
重篤化。
つまり、あの未来の日記に書かれていた、32歳での死。
「早期に中止できたおかげで、後遺症もありません」
医師は、悠真に微笑みかけた。
「完全に回復しています。もう心配ありません」
悠真は、深く息を吐いた。
「ありがとうございます」
凛は、涙が溢れそうになった。
でも、診察室では泣けない。
必死にこらえた。
診察が終わり、二人は病院を出た。
外に出た途端、凛は立ち止まった。
そして、両手で顔を覆った。
涙が、止まらない。
「水瀬さん」
悠真が、凛の肩に手を置いた。
「良かった……本当に、良かった……」
凛の声は、涙でかすれていた。
悠真は、凛を抱きしめた。
「ありがとう。君が、僕を救ってくれました」
凛は、悠真の胸で泣いた。
嬉しい涙。
安堵の涙。
やっと、やっと、約束を果たせた。
子供の悠真との約束。
「必ず、あなたを救う」
その約束を、守れた。
しばらくして、凛は顔を上げた。
涙を拭う。
「ごめんなさい。泣いちゃって」
「いえ」
悠真は、優しく微笑んだ。
「僕も、泣きそうです」
悠真の目にも、涙が浮かんでいた。
二人は、病院の前のベンチに座った。
「未来を、変えられたんですね」
悠真が、空を見上げながら言った。
「あの日記に書かれていた未来を」
凛は、頷いた。
「はい。32歳で死ぬという運命を、変えられました」
悠真は、凛の手を取った。
「君が、過去に戻ってきてくれたから」
凛は、悠真の手を握り返した。
「あなたが、信じてくれたから。一緒に戦ってくれたから」
二人は、手を繋いだまま、しばらく黙っていた。
風が、優しく吹いている。
木の葉が、揺れる音。
鳥の鳴き声。
穏やかな午後。
「これから、僕たちには未来があるんですね」
悠真が、凛を見た。
「変えられた未来が」
凛は、微笑んだ。
「はい。これから、私たちが作っていく未来です」
悠真も、微笑んだ。
「一緒に、作りましょう」
凛は、頷いた。
「はい。一緒に」
二人は、立ち上がった。
手を繋いだまま、歩き始めた。
新しい未来へ向かって。
もう、死の運命はない。
あるのは、希望だけ。
二人で歩む、未来だけ。
凛の心は、満たされていた。
過去に戻って、本当に良かった。
辛いこともたくさんあった。
苦しいこともたくさんあった。
でも、全てに意味があった。
悠真を救うために。
この未来を作るために。
凛は、空を見上げた。
雲ひとつない空。
美しい空。
これから、どんな未来が待っているだろう。
わからない。
でも、怖くない。
悠真が、一緒にいるから。
二人で、どんな困難も乗り越えられる。
凛は、悠真の手を握りしめた。
悠真も、凛の手を握り返した。
二人は、微笑み合った。
そして、新しい未来へ向かって、歩き続けた。

次の日の夜、仕事を終えた凛と悠真は、事務所を出た。
外は、もう暗くなっていた。
街灯が、点々と灯っている。
「少し、歩きませんか」
悠真が、凛に言った。
「はい」
凛は、頷いた。
二人は、並んで歩き始めた。
静かな夜。
人通りは、少ない。
しばらく歩くと、小さな公園に着いた。
ブランコと、ベンチがあるだけの、小さな公園。
誰もいない。
二人は、ベンチに座った。
空を見上げる。
星が、いくつか見えた。
きれいな星。
「水瀬さん」
悠真が、口を開いた。
「はい」
凛は、悠真を見た。
「あの過去の体験、不思議ですよね」
悠真の声は、穏やかだった。
凛は、少し驚いた。
「急に、どうしたんですか」
「いえ。ふと、思い出して」
悠真は、空を見上げたまま言った。
「君が、過去に戻ってきたこと。僕と、遊んだこと。全部、本当にあったんですよね」
凛は、頷いた。
「はい。本当にあったことです」
悠真は、凛を見た。
「でも、どうやって? なぜ、そんなことが可能だったんでしょう」
凛は、少し考えた。
それから、答えた。
「わかりません。今でも、夢だったんじゃないかって思うこともあります」
凛は、カバンから貝殻を取り出した。
小さな、白い貝殻。
「でも、これがある。あなたがくれた、この貝殻が」
悠真は、その貝殻を見つめた。
「僕も、覚えています。あの秘密基地で、君に渡したこと」
悠真の声は、懐かしそうだった。
「あの時、君は特別だって思ったんです。なぜかわからないけど、ずっと一緒にいたいって」
凛の胸が、温かくなった。
「私も、同じでした」
凛は、貝殻を光にかざした。
街灯の光が当たり、虹色に光る。
「あの時から、あなたのことが好きだったんだと思います」
凛は、小さく言った。
悠真は、驚いたように凛を見た。
「本当ですか」
凛は、顔を赤くしながら頷いた。
「はい。子供の頃から、ずっと」
悠真は、凛の手を取った。
「僕も、同じです」
悠真の声は、優しかった。
「あの記憶は、ずっと僕の心の中にありました。夢だと思っていたけど、いつも大切にしていました」
凛は、涙が出そうになった。
でも、こらえた。
今は、泣きたくない。
「不思議ですよね」
悠真は、貝殻を見つめた。
「過去と未来が、こんな風に繋がるなんて」
凛は、頷いた。
「でも、私たちには本当に起きたことです」
悠真は、凛を見た。
「これは、二人だけの秘密ですね」
凛は、微笑んだ。
「はい。誰にも話せない、二人だけの秘密」
悠真も、微笑んだ。
「大切にしましょう。この秘密を」
二人は、貝殻を一緒に見つめた。
小さな貝殻。
でも、それは二人を繋ぐ、大切な証。
過去と現在を繋ぐ、奇跡の証。
凛は、貝殻をそっとカバンにしまった。
「ありがとうございます」
凛は、悠真に言った。
「え?」
「あの時、この貝殻をくれて。そして、今も一緒にいてくれて」
悠真は、凛の手を握った。
「こちらこそ。君が、僕を救ってくれました」
二人は、手を繋いだまま、しばらく座っていた。
静かな夜。
星空の下。
二人だけの時間。
それは、とても穏やかで、幸せな時間だった。
翌朝、凛は事務所で机に向かっていた。
パソコンで、資料を作成している。
悠真は、まだ来ていない。
午前の面談があるからだ。
佐々木も、メディアとの打ち合わせで外出している。
静かな朝。
凛は、集中して作業を続けていた。
その時、スマホが震えた。
メールの通知。
凛は、スマホを手に取った。
差出人を見る。
差出人不明。
凛の心臓が、ドキッとした。
まさか。
凛は、メールを開いた。
件名はない。
本文だけがある。
「お疲れ様でした」
凛は、息を呑んだ。
この文体。
あの時の、メールと同じだ。
凛は、続きを読んだ。
「長い戦いでしたね。でも、あなたはやり遂げました。過去に戻り、未来を変えようとしたあなたの勇気に、敬意を表します」
凛の手が、震えた。
やっぱり。
あの時、凛を過去に送った、謎の存在。
「これから、あなたには新しい人生が待っています。どうか、幸せになってください。また困ったことがあれば、いつでも呼んでください。私は、いつでもあなたの味方です」
メールは、そこで終わっていた。
凛は、スマホを握りしめた。
涙が、溢れてきた。
嬉しい涙。
感謝の涙。
ありがとう。
凛は、心の中で呟いた。
あなたのおかげで、私は過去に戻れた。
悠真に会えた。
そして、真実を明らかにすることができた。
本当に、ありがとう。
その時、ドアが開いた。
悠真が、入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
凛は、涙を拭いた。
悠真は、凛の様子に気づいた。
「どうかしましたか」
凛は、スマホを悠真に見せた。
「これ、見てください」
悠真は、メールを読んだ。
そして、驚いたように凛を見た。
「これは……」
「あの時の、メールと同じ人からです」
凛は、言った。
悠真は、もう一度メールを読んだ。
それから、微笑んだ。
「お礼を言いたいですね」
凛は、頷いた。
「はい」
凛は、返信を書き始めた。
「ありがとうございました。あなたのおかげで、私は大切な人を救うことができました」
凛は、少し考えた。
それから、続けた。
「でも、もう大丈夫です。これからは、自分の力で歩いていきます。また困ったら、その時はお願いするかもしれません。でも、今は大丈夫です」
凛は、最後に書いた。
「本当に、ありがとうございました」
送信。
凛は、スマホを置いた。
悠真が、凛の肩に手を置いた。
「これで、本当に終わりですね」
凛は、悠真を見た。
「いえ。これから、始まるんです」
凛は、微笑んだ。
「新しい人生が」
悠真も、微笑んだ。
「そうですね」
悠真は、凛の手を取った。
「一緒に、歩きましょう」
凛は、悠真の手を握り返した。
「はい」
二人は、窓の外を見た。
朝日が、街を照らしている。
新しい一日の、始まり。
新しい人生の、始まり。
凛と悠真は、手を繋いだまま、その光を見つめていた。
もう、迷わない。
もう、恐れない。
二人で、前に進む。
どんな困難があっても。
どんな試練があっても。
二人なら、乗り越えられる。
凛は、深呼吸をした。
そして、悠真と一緒に、新しい朝へ歩き出した。
希望を胸に。
愛を心に。
未来へ向かって。