裁判長の手が、小槌を持ち上げた。
今にも、叩き下ろされようとしていた。
凛は、目を閉じた。
終わる。
全てが、終わる。
その時だった。
「待ってください!」
大きな声が、法廷に響いた。
凛は、目を開けた。
裁判長も、小槌を止めた。
法廷中の視線が、一斉に声のした方向を向いた。
傍聴席。
そこに、一人の男性が立ち上がっていた。
40代くらい。
スーツ姿。
凛は、その顔を見て、息を呑んだ。
佐々木だ。
元同僚の、佐々木さん。
信じられない。
なぜ、ここに。
裁判長は、驚いて佐々木を見た。
眉をひそめている。
「どなたですか」
裁判長の声は、厳しかった。
佐々木は、震える声で答えた。
「私は……」
佐々木の声が、途切れた。
深呼吸をする。
法廷中が、静まり返っている。
誰もが、佐々木を見つめている。
佐々木は、もう一度口を開いた。
「私は、エクセリア製薬の社員です」
法廷が、ざわめいた。
記者たちが、一斉にメモを取り始める。
原告側の弁護士たちが、顔を見合わせている。
動揺している。
佐々木は、続けた。
「証言したいことがあります」
佐々木の声は、震えていた。
でも、強い意志が込められていた。
裁判長は、厳しい顔をした。
「傍聴人が、審理中に発言することは認められません」
でも、佐々木は引き下がらなかった。
「お願いします」
佐々木は、必死に訴えた。
「重要な証言です。水瀬さんのために……いえ、真実のために、話させてください」
裁判長は、少し考えた。
それから、川島を見た。
「被告側弁護士、この方を証人として申請しますか」
川島は、すぐに立ち上がった。
「はい。証人として申請いたします」
裁判長は、原告側を見た。
「原告側、異議はありますか」
相手方の弁護士が、慌てて立ち上がった。
「異議があります。この証人は、事前に申請されていません」
裁判長は、頷いた。
「確かに、その通りです」
佐々木は、必死に訴えた。
「私は、今日まで迷っていました。でも、午前の審理を見て、決意したんです」
佐々木の声は、震えていた。
「このままでは、真実が埋もれてしまう。それだけは、避けなければいけないと」
裁判長は、しばらく考えていた。
法廷中が、固唾を呑んで見守っている。
凛は、佐々木を見つめた。
涙が、溢れてきた。
佐々木さん。
来てくれたんだ。
証言してくれるんだ。
裁判長は、やっと口を開いた。
「例外的に、証言を認めます」
傍聴席が、ざわめいた。
原告側の弁護士が、抗議しようとした。
でも、裁判長が手を上げて制した。
「ただし、証言内容によっては、後日改めて審理することもあり得ます」
裁判長は、佐々木を見た。
「証人、前へ」
佐々木は、深呼吸をした。
そして、傍聴席を出た。
法廷の中央を歩く。
その足取りは、震えていた。
でも、止まらなかった。
凛の席の前を通り過ぎる時、佐々木は凛を見た。
その目には、決意が宿っていた。
凛は、小さく頷いた。
ありがとうございます。
心の中で、何度も言った。
佐々木は、証言台に着いた。
裁判長の前。
一段高いところ。
佐々木は、そこに立った。
緊張で、顔が青ざめている。
手が、震えている。
裁判長が、佐々木に尋ねた。
「証人、氏名を述べてください」
佐々木は、震える声で答えた。
「佐々木隆です」
「生年月日は」
「1979年8月23日です」
「職業は」
佐々木は、少し躊躇した。
それから、答えた。
「エクセリア製薬株式会社、広報部に勤務しています」
法廷が、また ざわめいた。
現役の社員だ。
会社を裏切ろうとしている。
原告側の弁護士たちが、険しい表情で佐々木を見ている。
裁判長は、宣誓書を渡した。
「宣誓をしてください」
佐々木は、宣誓書を受け取った。
手が、震えている。
紙が、小刻みに揺れている。
佐々木は、声を出した。
「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」
声は、震えていた。
でも、はっきりとしていた。
佐々木は、宣誓書にサインをした。
書記官に返す。
裁判長は、川島に促した。
「被告側、尋問を始めてください」
川島が、立ち上がった。
佐々木を見る。
その目には、感謝の色があった。
「佐々木さん」
川島が、穏やかに尋ねた。
「あなたは、エクセリア製薬で何をされていますか」
佐々木は、答えた。
「広報部で、企業広報を担当しています。水瀬さんの、先輩にあたります」
川島は、頷いた。
「それでは、お聞きします。あなたは、メディアジールの副作用について、何か知っていますか」
佐々木は、深呼吸をした。
そして、答え始めた。
「はい。知っています」
佐々木の声は、震えていた。
「私は、組織的な副作用隠蔽を、目撃しました」
法廷が、静まり返った。
誰もが、息を呑んで佐々木を見ている。
佐々木は、続けた。
「メディアジールの副作用報告は、150件以上ありました。重篤なケースも、多数含まれていました」
原告側の席から、動揺の気配が伝わってくる。
弁護士たちが、小声で何か話している。
田中部長の顔が、青ざめている。
佐々木は、さらに続けた。
「でも、会社は、それを公表しませんでした。役員会議で、副作用報告を削除するよう指示が出ました」
傍聴席が、ざわめいた。
記者たちが、一斉にメモを取る。
裁判長が、静粛を求める。
川島は、佐々木に尋ねた。
「その指示は、誰が出したのですか」
佐々木は、少し躊躇した。
でも、答えた。
「田中部長です。そして、その上の役員も、承知していました」
田中部長が、立ち上がろうとした。
でも、原告側の弁護士が、それを制した。
佐々木は、震える声で続けた。
「私も、その場にいました。でも、何も言えませんでした」
佐々木の声が、詰まった。
「私は……臆病でした」
佐々木の目から、涙が溢れてきた。
「水瀬さんが、勇気を出して真実を明らかにした時、私は何もしませんでした」
佐々木は、凛の方を見た。
「彼女が、一人で戦っているのを見ても、私は会社にしがみついていました」
凛も、涙が止まらなかった。
佐々木さん。
「でも、今日、午前の審理を見て、決めたんです」
佐々木の声に、力が戻ってきた。
「もう、逃げない。真実を、話す」
川島は、頷いた。
「ありがとうございます。それでは、被告・水瀬凛が提出したデータについて、お聞きします」
川島は、佐々木を見た。
「そのデータは、本物ですか」
佐々木は、即座に答えた。
「はい。本物です」
佐々木の声は、はっきりしていた。
「私も、同じデータを見たことがあります。水瀬さんが取得したデータは、改ざんなどされていません」
法廷が、ざわめいた。
原告側の弁護士が、立ち上がった。
「異議があります。証人は、データの専門家ではありません」
裁判長は、弁護士を見た。
「異議は、認めます。ただし、証人の証言は記録に残します」
川島は、続けた。
「佐々木さん、会社がデータを改ざんしたという可能性は」
佐々木は、頷いた。
「あります」
佐々木の答えに、法廷が再びざわめいた。
「会社は、都合の悪いデータを削除してきました。今回も、水瀬さんのデータが本物だとわかれば、それを偽物だと言い張る可能性は十分にあります」
原告側の弁護士たちが、顔を見合わせている。
明らかに、動揺している。
川島は、最後の質問をした。
「佐々木さん、今日ここで証言することで、あなたは会社での立場を失うかもしれません。それでも、証言されたのはなぜですか」
佐々木は、少し考えた。
それから、答えた。
「真実が、埋もれるのを見ていられなかったからです」
佐々木の声は、穏やかだった。
「水瀬さんは、正しいことをしました。でも、会社はそれを潰そうとしています」
佐々木は、法廷全体を見渡した。
「私は、もう逃げたくありません。自分の良心に、従いたいんです」
川島は、深く頷いた。
「ありがとうございました」
川島は、席に戻った。
裁判長は、原告側を見た。
「原告側、反対尋問はありますか」
原告側の主任弁護士が、立ち上がった。
でも、その表情は、以前のような自信に満ちたものではなかった。
動揺が、隠せていない。
「佐々木さん」
弁護士の声は、少し震えていた。
「あなたは、会社に不満があったのではありませんか」
佐々木は、首を振った。
「不満はありません。ただ、真実を話したいだけです」
弁護士は、別の角度から攻めた。
「あなたの証言には、証拠がありません。ただの主観ではありませんか」
佐々木は、ポケットから何かを取り出した。
USBメモリだ。
「これに、証拠があります」
法廷が、静まり返った。
佐々木は、そのUSBメモリを掲げた。
「会社の内部文書です。副作用報告の削除を指示するメール。役員の署名入りです」
原告側の席が、騒然となった。
弁護士たちが、慌てて相談している。
田中部長の顔が、真っ青になった。
裁判長は、佐々木を見た。
「それを、提出できますか」
佐々木は、頷いた。
「はい。提出します」
書記官が、USBメモリを受け取った。
すぐに、パソコンに接続する。
スクリーンに、メールの内容が表示され始めた。
差出人:田中一郎(広報部長)
宛先:佐々木隆
件名:メディアジール副作用報告の取り扱いについて
本文:
「メディアジールの副作用報告について、以下の通り対応してください。
1.重篤な症例(症例番号12、15、28、34、47)については、データベースから削除すること
2.削除の痕跡が残らないよう、慎重に処理すること
3.外部からの問い合わせには、『軽微なもの数件のみ』と回答すること
この指示は、役員会の承認を得ています。厳重に取り扱ってください」
法廷中が、そのメールを見ていた。
誰もが、息を呑んでいる。
証拠だ。
決定的な証拠だ。
凛は、スクリーンを見つめた。
涙が、止まらない。
でも、今度は絶望の涙じゃない。
希望の涙。
佐々木さんが、証拠を持ってきてくれた。
真実を、明らかにしてくれた。
原告側の弁護士が、立ち上がった。
「裁判長、このメールの真偽を確認する必要があります」
でも、その声には、もう力がなかった。
裁判長は、スクリーンを見ていた。
その表情は、厳しかった。
「確認します。しかし、一見して、重大な証拠であることは明らかです」
裁判長は、原告側を見た。
「原告側、このメールについて、見解はありますか」
原告側の弁護士たちは、顔を見合わせた。
誰も、すぐには答えられない。
主任弁護士が、立ち上がった。
「少し、時間をいただけますか」
その声は、苦しそうだった。
以前のような自信は、完全に消えていた。
裁判長は、頷いた。
「では、10分間休廷します」
裁判長は、小槌を叩いた。
「全員、起立」
書記官の声。
全員が、立ち上がった。
裁判長が、退廷する。
「着席」
全員が、座った。
法廷が、ざわめき始めた。
記者たちが、一斉にメモを取っている。
傍聴席の人たちも、興奮した様子で話し合っている。
凛は、その場に座ったまま、信じられない思いだった。
佐々木さんが、証拠を持ってきてくれた。
決定的な証拠を。
悠真が、凛の手を握った。
「すごいですね」
悠真の声は、震えていた。
喜びと驚きで。
川島も、興奮を抑えきれない様子だった。
「これは……大きな転機です」
川島は、小声で言った。
「会社側は、もう逃げられません」
凛は、証言台を降りて席に戻ろうとしている佐々木を見た。
佐々木も、凛を見た。
二人の目が、合う。
凛は、立ち上がった。
佐々木のところへ向かう。
「佐々木さん」
凛の声は、涙で震えていた。
佐々木は、凛を見た。
その目にも、涙が浮かんでいた。
「水瀬さん……」
凛は、何も言えなかった。
ただ、頭を下げた。
深く。
「ありがとうございます」
凛の声は、かすれていた。
佐々木は、首を振った。
「僕が、お礼を言うべきです」
佐々木の声も、震えていた。
「君が、勇気を出してくれたから。僕も、やっと動けた」
二人は、しばらくそのまま立っていた。
周りの喧騒が、遠くに聞こえる。
原告側の席では、弁護士たちと田中部長が緊急の協議をしていた。
険しい表情。
小声での激しいやり取り。
明らかに、追い詰められている。
10分が、経った。
裁判長が、再び入廷した。
「全員、起立」
書記官の声。
全員が、立ち上がった。
裁判長が、席に着く。
「着席」
全員が、座った。
法廷が、静まり返った。
誰もが、次の展開を固唾を呑んで見守っている。
裁判長は、原告側を見た。
「原告側、見解はまとまりましたか」
原告側の主任弁護士が、立ち上がった。
その顔は、青ざめていた。
以前の自信に満ちた態度は、どこにもない。
弁護士は、深呼吸をした。
それから、口を開いた。
「裁判長」
その声は、小さかった。
「原告・エクセリア製薬株式会社は……」
弁護士は、言葉を切った。
もう一度、深呼吸をする。
法廷中が、その言葉を待っている。
「和解を、申し出ます」
その言葉が、法廷に響いた。
凛は、息を呑んだ。
和解。
会社が、和解を申し出た。
傍聴席が、ざわめいた。
裁判長は、弁護士を見た。
「和解ですか。条件は」
弁護士は、手元の資料を見た。
その手が、震えている。
「当社は、メディアジールの副作用について、公式に認めます」
弁護士の声は、途切れ途切れだった。
「そして、被害に遭われた患者の皆様に、誠心誠意、補償をさせていただきます」
法廷が、また大きくざわめいた。
弁護士は、続けた。
「被告・水瀬凛に対する損害賠償請求は、取り下げます」
凛は、信じられない思いで聞いていた。
本当に。
本当に、認めたんだ。
会社が、副作用を認めた。
「さらに、当社は今後、医薬品の安全性について、より厳格な管理体制を構築することを約束いたします」
弁護士は、深く頭を下げた。
「被告、ならびに被害に遭われた患者の皆様に、心よりお詫び申し上げます」
裁判長は、川島を見た。
「被告側、この和解案について、どうお考えですか」
川島は、凛を見た。
凛も、川島を見た。
二人の目が、合う。
川島は、小声で尋ねた。
「どうされますか」
凛は、少し考えた。
それから、頷いた。
「和解で、お願いします」
川島は、頷いた。
そして、立ち上がった。
「被告側は、和解案を受け入れます」
裁判長は、満足そうに頷いた。
「それでは、和解が成立しました」
裁判長は、小槌を手に取った。
「原告は、速やかに和解条項を作成し、提出してください」
「はい」
原告側の弁護士が、力なく答えた。
裁判長は、法廷全体を見渡した。
「本件は、和解により解決されました。これをもって、本件を終了します」
裁判長は、小槌を叩いた。
その音が、法廷に響いた。
終わった。
本当に、終わった。
そして、勝った。
傍聴席から、拍手が起こった。
一人、二人。
それが、どんどん広がっていく。
やがて、法廷全体が拍手に包まれた。
歓声も、上がる。
「よくやった!」
「水瀬さん、おめでとう!」
患者支援団体の人たちが、立ち上がって拍手している。
記者たちも、拍手している。
凛は、その場に座ったまま、涙が止まらなかった。
勝った。
本当に、勝った。
真実を、明らかにできた。
悠真が、凛を抱きしめた。
「よかった……本当に、よかった」
悠真の声も、涙で震えていた。
凛は、悠真の胸に顔を埋めた。
声を出して、泣いた。
嬉しい涙。
安堵の涙。
全てが、溢れ出てくる。
悠真も、凛を強く抱きしめていた。
二人は、しばらくそのまま抱き合っていた。
周りの拍手と歓声の中で。
凛は、やっと顔を上げた。
涙を拭う。
そして、佐々木を探した。
佐々木は、傍聴席の近くに立っていた。
凛と目が合うと、微笑んだ。
凛は、立ち上がった。
佐々木のところへ向かう。
「佐々木さん」
凛は、佐々木の前で立ち止まった。
「ありがとうございました。本当に、ありがとうございました」
凛は、もう一度深く頭を下げた。
佐々木は、凛の肩に手を置いた。
「礼を言うのは、僕の方です」
佐々木の目にも、涙が光っていた。
「君が、勇気をくれたんです。君がいなければ、僕はずっと逃げ続けていた」
凛は、顔を上げた。
「僕も、やっと自分を許せそうです」
佐々木は、優しく微笑んだ。
「これから、一緒に患者さんたちを支えていきましょう」
凛は、頷いた。
「はい」
二人は、握手を交わした。
しっかりと。
川島も、二人に近づいてきた。
「お二人とも、お疲れ様でした」
川島も、満足そうに笑っていた。
「素晴らしい結果です」
三人は、法廷を出た。
廊下には、報道陣が待ち構えていた。
カメラのフラッシュが、一斉に光る。
「水瀬さん、勝訴おめでとうございます」
「今のお気持ちは」
「会社が副作用を認めましたが、コメントを」
質問が、次々と飛んでくる。
凛は、立ち止まった。
深呼吸をする。
そして、カメラを見た。
「長い戦いでした」
凛の声は、しっかりしていた。
「でも、真実を明らかにすることができました」
凛は、続けた。
「これは、私一人の勝利ではありません」
凛は、悠真を見た。
悠真は、凛の隣に立っている。
「支えてくれた人たち。患者さんたち。そして、勇気を出して証言してくれた佐々木さん」
凛は、佐々木を見た。
佐々木も、凛の隣に立っていた。
「みんなの勝利です」
凛の言葉に、報道陣がまた質問を投げかけようとした。
でも、その時、廊下の向こうから声が聞こえた。
「凛!」
凛は、その声を聞いて振り返った。
母だ。
母が、廊下を走ってくる。
凛は、母のところへ駆け寄った。
「お母さん」
母は、凛を抱きしめた。
強く。
「よく頑張ったわね。本当に、よく頑張った」
母の声は、涙で震えていた。
凛は、母の胸で泣いた。
子供のように。
母は、凛の頭を撫でた。
「誇りに思うわ。あなたを、心から誇りに思う」
凛は、母の言葉を聞いて、また涙が溢れてきた。
でも、今度は悲しい涙じゃない。
嬉しい涙。
安心の涙。
母に、認めてもらえた。
それが、何よりも嬉しかった。
涙を拭う。
廊下には、患者支援団体の人たちも集まってきていた。
「水瀬さん、おめでとうございます」
「ありがとうございました」
一人一人が、凛に声をかけてくる。
握手を求めてくる。
凛は、一人一人と握手を交わした。
「ありがとうございます」
「これから、一緒に頑張りましょう」
凛は、何度も繰り返した。
悠真も、凛の隣で患者さんたちと話していた。
医師として。
そして、凛の支援者として。
凛は、その光景を見て、心が温かくなった。
ここにいる人たち。
みんな、凛を支えてくれた人たち。
もう、一人じゃない。
凛は、カバンから貝殻を取り出した。
悠真がくれた、貝殻。
光にかざすと、虹色に光る。
凛は、その貝殻を見つめた。
悠真。
約束、守れたよ。
あなたを、救えた。
患者さんたちも、救えた。
真実を、明らかにできた。
凛は、貝殻を胸に抱いた。
温かい。
この貝殻が、ずっと凛を支えてくれた。
悠真との約束が、凛を支えてくれた。
凛は、悠真を見た。
悠真も、凛を見ていた。
二人は、微笑み合った。
言葉はいらない。
全てが、その笑顔に込められていた。
凛は、窓の外を見た。
晴れ渡った空。
白くたなびく雲。
太陽が、明るく照らしている。
希望の光。
凛の心にも、光が満ちていた。
戦いは、終わった。
そして、新しい始まりが、待っていた。