翌日の休み時間、凛は悠真を秘密基地に誘った。
「悠真くん、昨日の話なんだけど」
二人は、段ボールの基地の中に座っている。
「うん」
悠真は、凛を見た。
「もっと詳しく教えて欲しいの」
凛は、真剣な顔で言った。
悠真は、少し考えてから頷いた。
「何が知りたい?」
「薬の名前。もう一度、教えて」
凛は、震える声で尋ねた。
悠真は、目を閉じて思い出そうとしている。
「えっと……メディ……」
悠真は、額に手を当てた。
「メディ……なんとか。はっきりとは覚えてないんだ。ごめん」
凛は、息を呑んだ。
メディ。
やっぱり、メディアジールだ。
凛は、血の気が引くのを感じた。
手が、冷たくなる。
「凛ちゃん?」
悠真が、心配そうに凛を見た。
「大丈夫?」
凛は、慌てて笑顔を作った。
「うん、大丈夫」
でも、心臓は激しく鳴っている。
凛は、深呼吸をした。
落ち着かなきゃ。
「他に、何か覚えてることはある?」
凛は、できるだけ平静を装って尋ねた。
悠真は、また考えた。
「日記には、たくさんの人が苦しんでるって書いてあった」
「たくさんの人?」
「うん。その薬を飲んだ人たちが、いろんな症状で苦しんでるって」
凛は、あの副作用報告書を思い出した。
89件。
いや、もっとあるかもしれない。
データの空白。
隠蔽されている症例。
「どんな症状?」
凛は、さらに尋ねた。
悠真は、困ったように眉をひそめた。
「えっと……めまいとか、頭痛とか。あと、もっとひどい症状もあるって」
凛は、唇を噛んだ。
やっぱり。
あの報告書に書いてあった症状と、同じだ。
「悠真くん、その日記、まだ持ってるの?」
凛は、思わず尋ねた。
悠真は、首を振った。
「ううん。読んだ後、また元の場所に戻したんだ。タンスの奥に」
「そっか……」
凛は、少しがっかりした。
でも、日記を見たところで、どうにもならない。
ここは過去だ。
未来の日記なんて、存在しないはずだ。
不思議なことだらけだ。
凛は、頭を振った。
今は、それを考えてる場合じゃない。
「ありがとう、悠真くん。教えてくれて」
凛は、悠真の手を握った。
「必ず、何とかするから」
悠真は、安心したように笑った。
「うん。凛ちゃんを信じてる」
凛は、さらに尋ねた。
「その薬を作った会社の名前は、わかる?」
悠真は、首を横に振った。
「会社の名前は、日記には書いてなかった」
凛は、少し落胆した。
でも、予想はしていた。
「でも……」
悠真は、何か思い出そうとしている。
「大きな製薬会社だって、書いてあった気がする」
大きな製薬会社。
エクセリア製薬は、日本でも有数の大手だ。
凛は、確信に近いものを感じた。
自分の会社だ。
間違いない。
メディアジール。
副作用報告書。
89件の症例。
そして、悠真の未来。
全部、繋がっている。
凛は、拳を握りしめた。
「凛ちゃん、手、震えてるよ」
悠真が、心配そうに凛の手を見ている。
凛は、慌てて手を膝の上に置いた。
「ごめん。ちょっと、寒くて」
嘘だ。
震えてるのは、怒りと恐怖のせいだ。
自分の会社が、悠真を殺す。
そして、他にもたくさんの人を苦しめる。
凛は、唇を噛んだ。
許せない。
でも、今の自分には、何もできない。
ここは過去だ。
子供の体だ。
現代に戻らなければ、何もできない。
凛は、焦りを感じた。
どうやって戻るんだろう。
あの引き出しは、ここにはない。
凛は、深呼吸をした。
落ち着け。
きっと、戻る方法はある。
あのメールの差出人は、戻る方法も教えてくれるはずだ。
「凛ちゃん、本当に大丈夫?」
悠真が、もう一度尋ねた。
凛は、笑顔を作った。
「大丈夫。心配しないで」
悠真は、まだ心配そうな顔をしている。
凛は、悠真を抱きしめた。
「ありがとう、悠真くん。大切なことを教えてくれて」
悠真は、少し驚いたようだったが、すぐに凛を抱き返した。
「凛ちゃん、頑張ってね」
「うん」
凛は、目を閉じた。
必ず、現代に戻る。
そして、悠真を救う。
この約束は、絶対に守る。
凛は、心に誓った。
その日の夜、凛は布団の中で目を開けていた。
天井を見つめる。
現代に戻らなきゃ。
そう思った。
でも、どうやって?
あの引き出しは、ここにはない。
現代の自分の部屋にしかない。
凛は、焦りを感じた。
もし、戻れなかったら?
ずっと、ここにいることになったら?
悠真を救えない。
メディアジールの副作用を止められない。
たくさんの人が、苦しむことになる。
凛は、布団を握りしめた。
でも、同時に、別の感情も湧いてきた。
悠真と離れたくない。
この幸せな時間が、終わってほしくない。
凛は、矛盾した感情に揺れていた。
戻らなきゃいけない。
でも、まだいたい。
悠真の笑顔が、浮かんでくる。
一緒に遊んだこと。
秘密基地での会話。
駄菓子屋でのおしゃべり。
全部、愛おしい思い出。
凛は、目を閉じた。
涙が、溢れてきた。
声を出さないように、口を手で覆う。
泣きたくない。
でも、涙が止まらない。
悠真と、もうすぐ別れなきゃいけない。
それが、辛い。
凛は、枕に顔を埋めた。
静かに、泣いた。
しばらくして、凛は顔を上げた。
涙を拭く。
泣いてる場合じゃない。
悠真を救うために、現代に戻らなきゃいけない。
それが、一番大事なこと。
凛は、深呼吸をした。
必ず、戻る。
そして、必ず、悠真を救う。
凛は、決意を新たにした。
でも、その決意と同時に、寂しさも募っていった。
凛は、また目を閉じた。
眠れない夜が、続いた。
翌日、凛は悠真と一緒に遊ぶことにした。
最後かもしれない。
そう思うと、胸が痛かった。
「今日は、何して遊ぶ?」
悠真が、嬉しそうに聞いてきた。
「鬼ごっこしようよ」
凛は、笑顔で答えた。
「いいね!」
悠真は、他の友達も呼んで、みんなで鬼ごっこをした。
校庭を走り回る。
笑い声が響く。
凛も、笑っていた。
でも、心は痛かった。
この時間が、終わってしまう。
もうすぐ、別れなきゃいけない。
「凛ちゃん、捕まえた!」
悠真が、凛にタッチした。
「あー、捕まっちゃった」
凛は、笑った。
でも、その笑顔の裏で、涙が溢れそうになっていた。
鬼ごっこが終わると、今度はかくれんぼをした。
凛は、木の陰に隠れた。
悠真が、「もういいかい」と叫んでいる。
凛は、静かに息を潜めた。
この時間を、忘れたくない。
悠真の声。
友達の笑い声。
この温かい空気。
全部、心に刻みつけたい。
「見つけた!」
悠真が、凛を見つけた。
「やっぱり、悠真くんは上手だね」
凛は、笑顔で言った。
悠真も、嬉しそうに笑った。
遊びが終わると、二人は秘密基地に戻った。
「今日は、楽しかったね」
悠真が、笑顔で言った。
「うん、楽しかった」
凛も、笑顔で答えた。
でも、心の中では、別れが近づいているのを感じていた。
凛は、悠真の顔を見つめた。
この顔を、忘れたくない。
この笑顔を、忘れたくない。
「凛ちゃん、どうしたの?」
悠真が、不思議そうに凛を見た。
「ううん、何でもない」
凛は、首を振った。
「ただ、悠真くんと遊べて、嬉しいなって思っただけ」
悠真は、照れくさそうに笑った。
「僕も、凛ちゃんと遊ぶの、大好きだよ」
凛は、胸が熱くなった。
ありがとう。
心の中で、呟いた。
ありがとう、悠真くん。
この時間を、絶対に忘れない。
夕暮れ時、凛と悠真は帰路についた。
オレンジ色の空。
二人の影が、長く伸びている。
「凛ちゃん」
悠真が、急に立ち止まった。
「うん?」
凛も、立ち止まって悠真を見た。
悠真は、少し寂しそうな顔をしていた。
「凛ちゃん、どこか行っちゃうの?」
凛は、ドキッとした。
「え?」
「なんか、最近、悲しそうな顔してるから」
悠真は、凛を見つめた。
「どこか、遠くに行っちゃうんじゃないかって」
凛は、言葉に詰まった。
どう答えればいい?
本当のことは、言えない。
「ううん」
凛は、首を振った。
「どこにも行かないよ」
嘘だ。
でも、言うしかない。
悠真は、まだ不安そうな顔をしていた。
「ずっと、友達だよね」
悠真が、小さく言った。
凛は、涙がこみ上げてきた。
でも、こらえた。
「うん」
凛は、笑顔を作った。
「ずっと、友達だよ」
悠真は、少し安心したように笑った。
「よかった」
凛は、悠真の頭を撫でた。
「心配しないで」
二人は、また歩き始めた。
凛は、涙をこらえながら、前を向いた。
ごめんね、悠真くん。
嘘をついて、ごめんね。
でも、必ず、あなたを救うから。
約束は、守るから。
「悠真くん、昨日の話なんだけど」
二人は、段ボールの基地の中に座っている。
「うん」
悠真は、凛を見た。
「もっと詳しく教えて欲しいの」
凛は、真剣な顔で言った。
悠真は、少し考えてから頷いた。
「何が知りたい?」
「薬の名前。もう一度、教えて」
凛は、震える声で尋ねた。
悠真は、目を閉じて思い出そうとしている。
「えっと……メディ……」
悠真は、額に手を当てた。
「メディ……なんとか。はっきりとは覚えてないんだ。ごめん」
凛は、息を呑んだ。
メディ。
やっぱり、メディアジールだ。
凛は、血の気が引くのを感じた。
手が、冷たくなる。
「凛ちゃん?」
悠真が、心配そうに凛を見た。
「大丈夫?」
凛は、慌てて笑顔を作った。
「うん、大丈夫」
でも、心臓は激しく鳴っている。
凛は、深呼吸をした。
落ち着かなきゃ。
「他に、何か覚えてることはある?」
凛は、できるだけ平静を装って尋ねた。
悠真は、また考えた。
「日記には、たくさんの人が苦しんでるって書いてあった」
「たくさんの人?」
「うん。その薬を飲んだ人たちが、いろんな症状で苦しんでるって」
凛は、あの副作用報告書を思い出した。
89件。
いや、もっとあるかもしれない。
データの空白。
隠蔽されている症例。
「どんな症状?」
凛は、さらに尋ねた。
悠真は、困ったように眉をひそめた。
「えっと……めまいとか、頭痛とか。あと、もっとひどい症状もあるって」
凛は、唇を噛んだ。
やっぱり。
あの報告書に書いてあった症状と、同じだ。
「悠真くん、その日記、まだ持ってるの?」
凛は、思わず尋ねた。
悠真は、首を振った。
「ううん。読んだ後、また元の場所に戻したんだ。タンスの奥に」
「そっか……」
凛は、少しがっかりした。
でも、日記を見たところで、どうにもならない。
ここは過去だ。
未来の日記なんて、存在しないはずだ。
不思議なことだらけだ。
凛は、頭を振った。
今は、それを考えてる場合じゃない。
「ありがとう、悠真くん。教えてくれて」
凛は、悠真の手を握った。
「必ず、何とかするから」
悠真は、安心したように笑った。
「うん。凛ちゃんを信じてる」
凛は、さらに尋ねた。
「その薬を作った会社の名前は、わかる?」
悠真は、首を横に振った。
「会社の名前は、日記には書いてなかった」
凛は、少し落胆した。
でも、予想はしていた。
「でも……」
悠真は、何か思い出そうとしている。
「大きな製薬会社だって、書いてあった気がする」
大きな製薬会社。
エクセリア製薬は、日本でも有数の大手だ。
凛は、確信に近いものを感じた。
自分の会社だ。
間違いない。
メディアジール。
副作用報告書。
89件の症例。
そして、悠真の未来。
全部、繋がっている。
凛は、拳を握りしめた。
「凛ちゃん、手、震えてるよ」
悠真が、心配そうに凛の手を見ている。
凛は、慌てて手を膝の上に置いた。
「ごめん。ちょっと、寒くて」
嘘だ。
震えてるのは、怒りと恐怖のせいだ。
自分の会社が、悠真を殺す。
そして、他にもたくさんの人を苦しめる。
凛は、唇を噛んだ。
許せない。
でも、今の自分には、何もできない。
ここは過去だ。
子供の体だ。
現代に戻らなければ、何もできない。
凛は、焦りを感じた。
どうやって戻るんだろう。
あの引き出しは、ここにはない。
凛は、深呼吸をした。
落ち着け。
きっと、戻る方法はある。
あのメールの差出人は、戻る方法も教えてくれるはずだ。
「凛ちゃん、本当に大丈夫?」
悠真が、もう一度尋ねた。
凛は、笑顔を作った。
「大丈夫。心配しないで」
悠真は、まだ心配そうな顔をしている。
凛は、悠真を抱きしめた。
「ありがとう、悠真くん。大切なことを教えてくれて」
悠真は、少し驚いたようだったが、すぐに凛を抱き返した。
「凛ちゃん、頑張ってね」
「うん」
凛は、目を閉じた。
必ず、現代に戻る。
そして、悠真を救う。
この約束は、絶対に守る。
凛は、心に誓った。
その日の夜、凛は布団の中で目を開けていた。
天井を見つめる。
現代に戻らなきゃ。
そう思った。
でも、どうやって?
あの引き出しは、ここにはない。
現代の自分の部屋にしかない。
凛は、焦りを感じた。
もし、戻れなかったら?
ずっと、ここにいることになったら?
悠真を救えない。
メディアジールの副作用を止められない。
たくさんの人が、苦しむことになる。
凛は、布団を握りしめた。
でも、同時に、別の感情も湧いてきた。
悠真と離れたくない。
この幸せな時間が、終わってほしくない。
凛は、矛盾した感情に揺れていた。
戻らなきゃいけない。
でも、まだいたい。
悠真の笑顔が、浮かんでくる。
一緒に遊んだこと。
秘密基地での会話。
駄菓子屋でのおしゃべり。
全部、愛おしい思い出。
凛は、目を閉じた。
涙が、溢れてきた。
声を出さないように、口を手で覆う。
泣きたくない。
でも、涙が止まらない。
悠真と、もうすぐ別れなきゃいけない。
それが、辛い。
凛は、枕に顔を埋めた。
静かに、泣いた。
しばらくして、凛は顔を上げた。
涙を拭く。
泣いてる場合じゃない。
悠真を救うために、現代に戻らなきゃいけない。
それが、一番大事なこと。
凛は、深呼吸をした。
必ず、戻る。
そして、必ず、悠真を救う。
凛は、決意を新たにした。
でも、その決意と同時に、寂しさも募っていった。
凛は、また目を閉じた。
眠れない夜が、続いた。
翌日、凛は悠真と一緒に遊ぶことにした。
最後かもしれない。
そう思うと、胸が痛かった。
「今日は、何して遊ぶ?」
悠真が、嬉しそうに聞いてきた。
「鬼ごっこしようよ」
凛は、笑顔で答えた。
「いいね!」
悠真は、他の友達も呼んで、みんなで鬼ごっこをした。
校庭を走り回る。
笑い声が響く。
凛も、笑っていた。
でも、心は痛かった。
この時間が、終わってしまう。
もうすぐ、別れなきゃいけない。
「凛ちゃん、捕まえた!」
悠真が、凛にタッチした。
「あー、捕まっちゃった」
凛は、笑った。
でも、その笑顔の裏で、涙が溢れそうになっていた。
鬼ごっこが終わると、今度はかくれんぼをした。
凛は、木の陰に隠れた。
悠真が、「もういいかい」と叫んでいる。
凛は、静かに息を潜めた。
この時間を、忘れたくない。
悠真の声。
友達の笑い声。
この温かい空気。
全部、心に刻みつけたい。
「見つけた!」
悠真が、凛を見つけた。
「やっぱり、悠真くんは上手だね」
凛は、笑顔で言った。
悠真も、嬉しそうに笑った。
遊びが終わると、二人は秘密基地に戻った。
「今日は、楽しかったね」
悠真が、笑顔で言った。
「うん、楽しかった」
凛も、笑顔で答えた。
でも、心の中では、別れが近づいているのを感じていた。
凛は、悠真の顔を見つめた。
この顔を、忘れたくない。
この笑顔を、忘れたくない。
「凛ちゃん、どうしたの?」
悠真が、不思議そうに凛を見た。
「ううん、何でもない」
凛は、首を振った。
「ただ、悠真くんと遊べて、嬉しいなって思っただけ」
悠真は、照れくさそうに笑った。
「僕も、凛ちゃんと遊ぶの、大好きだよ」
凛は、胸が熱くなった。
ありがとう。
心の中で、呟いた。
ありがとう、悠真くん。
この時間を、絶対に忘れない。
夕暮れ時、凛と悠真は帰路についた。
オレンジ色の空。
二人の影が、長く伸びている。
「凛ちゃん」
悠真が、急に立ち止まった。
「うん?」
凛も、立ち止まって悠真を見た。
悠真は、少し寂しそうな顔をしていた。
「凛ちゃん、どこか行っちゃうの?」
凛は、ドキッとした。
「え?」
「なんか、最近、悲しそうな顔してるから」
悠真は、凛を見つめた。
「どこか、遠くに行っちゃうんじゃないかって」
凛は、言葉に詰まった。
どう答えればいい?
本当のことは、言えない。
「ううん」
凛は、首を振った。
「どこにも行かないよ」
嘘だ。
でも、言うしかない。
悠真は、まだ不安そうな顔をしていた。
「ずっと、友達だよね」
悠真が、小さく言った。
凛は、涙がこみ上げてきた。
でも、こらえた。
「うん」
凛は、笑顔を作った。
「ずっと、友達だよ」
悠真は、少し安心したように笑った。
「よかった」
凛は、悠真の頭を撫でた。
「心配しないで」
二人は、また歩き始めた。
凛は、涙をこらえながら、前を向いた。
ごめんね、悠真くん。
嘘をついて、ごめんね。
でも、必ず、あなたを救うから。
約束は、守るから。



