あの日の電話の声は、頭に焼き付いて離れない。
21時を少し過ぎて仕事が終わり、ロッカーで着替えていたとき。
スマホが震え“唯”の名前が光った瞬間、
疲れなんて全部吹き飛んだ。
「もしもし、唯、今仕事終わったよ。…飲んでたの?」
返ってきた声は、甘くて、無邪気で、酔っていて。
俺の理性のど真ん中に火をつける。
「なんかね、こうちゃんに会いたくなっちゃった。だめ?」
――そんな言葉、俺に言うなよ。
行くに決まってる。
会いたいに決まってる。
けど、そんな本音を口に出来なくて
…だから必死に抑える。
「なんも大丈夫だよ。迎えに行くよ」
抑えた声で言いながら、胸はずっと走ってるみたいだった。
店に着くと、澄香と別れた唯が軽く酔った足取りで歩いてきた。
その瞬間、通りかかったスーツの男たちが、
舐めまわすみたいに唯の脚を見た。
こっちを見る前に、まず唯を見る。
その視線に気づいた瞬間、胸の奥で何かがちりっと焼けた。
唯のスカートは、ひらひらと揺れていて短い。
細い足が白くて、歩くたびに揺れて、
何も知らない無防備さが男の視線を引き寄せる。
その中の一人が声をかけた。
「えっ、可愛いー!飲みすぎたの?大丈夫?」
唯はふわっと笑って、
男の気配にまったく気づいてないみたいな顔で、首を傾けて
「大丈夫ですよ〜、友達来るんでっ。ありがとー!」
その笑顔が、男を喜ばせてしまうことを、
唯はまるで分かってない。
……それが余計に危ない。
俺の理性に一番よくない。
「こうちゃーん!」
唯が俺を見つけて手を振った瞬間、
スーツの男たちの視線が一度だけ俺に向いて
“なんであんな可愛い子がこいつのところに行くんだ”
そんな表情をした。
胸の奥で黒いものがくっきり形になった。
唯は本当に可愛い子だと思う。
でも、自覚がない。
その無防備さが、たまらなくて、怖い。
「ほら、水飲みな」
ペットボトルを渡しながら視線が自然と脚に落ちる。
短い。危ない。
“俺以外に見せるな”なんて言えるわけもないのに、
そう思った瞬間、罪悪感すら覚える。
「……またそんな短いの履いて。パンツ見えるって」
心配と嫉妬の境界線なんてとうに曖昧で、
口に出した言葉に自分で驚く。
嫉妬と心配が絡んで、理性の端っこがきしむ。
シャツを掛ける手は、もう意識より先に動いてた。
「こうちゃん、優しいね。来てくれてありがとう」
その笑顔が、俺だけのものであってくれたら――
そんな考えが浮かんでしまって、慌てて押し込む。
にこっと笑うその顔。
その笑顔を、他の男に向ける未来を思うだけで、喉が詰まる。
「あとね、こうちゃんって優しいんだって話してたのぉ」
優しいなんて言葉じゃ足りない。
唯にだけは、優しくなりすぎてる。
隠しても隠しきれない。
「…そうか? きっと唯には優しいね、俺」
それ以上言ったら、なにかが溢れてしまいそうだった。
家に着いた途端、唯の顔がぐっと曇った。
「…うー…気持ち悪い」
「吐きな。すっきりするから」
背中を支えた瞬間、
唯の小さな体が弱く震えて、胸がぎゅっとなる。
……守りたい。
抱きしめたい。
でも、手を出したら終わりだ。
「やだ、見ないでよぉ。恥ずかしい」
そんなこと言われても目を逸らせるわけがない。
「そんなこと言ってる場合じゃないから、ほら」
声がやけに低くなってるのを自分でも感じる。
介抱して、ソファに座らせて、sweetboxを流すと
唯の体が音にとけるように沈んだ。
「こうちゃん……眠ーい……」
「家まで送る?」
「うん……うん……」
行く気ゼロの返事に、思わず苦笑する。
こんなふうに甘えられると、
それがかわいすぎて、理性がまた削られる
“抱きしめたい”が一瞬で頭を支配する。
でも――絶対に境界線は越えない。
越えたら終わる。
俺が壊れる。
布団を敷いて、そっと声をかける。
「ここで寝な。俺も明日朝イチで仕事だから寝るからね?」
「えー……こうちゃんごめんね。本当は無理させちゃった?…ゆいのこと嫌いにならないでね…?」
その言葉で胸がぎゅっと縮む。
嫌いになるわけがない。
むしろどんどん好きになっている。
言えるわけないのに、その本音が喉まで上がる。
「なんもだよ。大丈夫、嫌いになんてならないよ。」
本音なんて、その何倍も深いところにある。
「ねぇ……こうちゃんに会いたくなったら、また電話していい?」
「いいよ。仕事中で出れないときでも、必ずかけ直すから」
“呼んでほしい”
“忘れないでほしい”
そんな子供みたいな願いを必死に隠す。
「うん……こうちゃん大好き~。」
その言葉で一瞬理性が崩壊しかける。
彼女にとって自分は
“安心できる存在”——
“欲しい相手”とは少し違う気がした。
いや、冗談だって分かってる。
でも、その一言を独り占めしたくなる。
「はいはい。早く寝な笑」
「……いっしょに寝よー……笑」
――やめろよ。
そんなの、理性が持たない。
手を出したくなる。
その自分が本気で怖くなる。
「バカでしょ。ゆっくり寝な」
襖は閉めない。
唯が不安にならないように。
そして俺自身が、唯の気配を感じていたいから。
「おやすみ」
返事はない。
唯の寝息を確認して、小さくつぶやく。
「……おやすみ、唯」
唯は無邪気で、無防備で、危なっかしくて、
男を惹きつけることにまるで気づいてない。
放っておくことなんて出来ない。
――その全部に、俺の理性はずっと負けそうだ。
ただ傍にいたい。
守りたい。
他の誰にも渡したくない。
触れたい。
でも触れられない。
矛盾でもずるくてもなんでもいい…
そんな想いを、唯はまだ知らない。
21時を少し過ぎて仕事が終わり、ロッカーで着替えていたとき。
スマホが震え“唯”の名前が光った瞬間、
疲れなんて全部吹き飛んだ。
「もしもし、唯、今仕事終わったよ。…飲んでたの?」
返ってきた声は、甘くて、無邪気で、酔っていて。
俺の理性のど真ん中に火をつける。
「なんかね、こうちゃんに会いたくなっちゃった。だめ?」
――そんな言葉、俺に言うなよ。
行くに決まってる。
会いたいに決まってる。
けど、そんな本音を口に出来なくて
…だから必死に抑える。
「なんも大丈夫だよ。迎えに行くよ」
抑えた声で言いながら、胸はずっと走ってるみたいだった。
店に着くと、澄香と別れた唯が軽く酔った足取りで歩いてきた。
その瞬間、通りかかったスーツの男たちが、
舐めまわすみたいに唯の脚を見た。
こっちを見る前に、まず唯を見る。
その視線に気づいた瞬間、胸の奥で何かがちりっと焼けた。
唯のスカートは、ひらひらと揺れていて短い。
細い足が白くて、歩くたびに揺れて、
何も知らない無防備さが男の視線を引き寄せる。
その中の一人が声をかけた。
「えっ、可愛いー!飲みすぎたの?大丈夫?」
唯はふわっと笑って、
男の気配にまったく気づいてないみたいな顔で、首を傾けて
「大丈夫ですよ〜、友達来るんでっ。ありがとー!」
その笑顔が、男を喜ばせてしまうことを、
唯はまるで分かってない。
……それが余計に危ない。
俺の理性に一番よくない。
「こうちゃーん!」
唯が俺を見つけて手を振った瞬間、
スーツの男たちの視線が一度だけ俺に向いて
“なんであんな可愛い子がこいつのところに行くんだ”
そんな表情をした。
胸の奥で黒いものがくっきり形になった。
唯は本当に可愛い子だと思う。
でも、自覚がない。
その無防備さが、たまらなくて、怖い。
「ほら、水飲みな」
ペットボトルを渡しながら視線が自然と脚に落ちる。
短い。危ない。
“俺以外に見せるな”なんて言えるわけもないのに、
そう思った瞬間、罪悪感すら覚える。
「……またそんな短いの履いて。パンツ見えるって」
心配と嫉妬の境界線なんてとうに曖昧で、
口に出した言葉に自分で驚く。
嫉妬と心配が絡んで、理性の端っこがきしむ。
シャツを掛ける手は、もう意識より先に動いてた。
「こうちゃん、優しいね。来てくれてありがとう」
その笑顔が、俺だけのものであってくれたら――
そんな考えが浮かんでしまって、慌てて押し込む。
にこっと笑うその顔。
その笑顔を、他の男に向ける未来を思うだけで、喉が詰まる。
「あとね、こうちゃんって優しいんだって話してたのぉ」
優しいなんて言葉じゃ足りない。
唯にだけは、優しくなりすぎてる。
隠しても隠しきれない。
「…そうか? きっと唯には優しいね、俺」
それ以上言ったら、なにかが溢れてしまいそうだった。
家に着いた途端、唯の顔がぐっと曇った。
「…うー…気持ち悪い」
「吐きな。すっきりするから」
背中を支えた瞬間、
唯の小さな体が弱く震えて、胸がぎゅっとなる。
……守りたい。
抱きしめたい。
でも、手を出したら終わりだ。
「やだ、見ないでよぉ。恥ずかしい」
そんなこと言われても目を逸らせるわけがない。
「そんなこと言ってる場合じゃないから、ほら」
声がやけに低くなってるのを自分でも感じる。
介抱して、ソファに座らせて、sweetboxを流すと
唯の体が音にとけるように沈んだ。
「こうちゃん……眠ーい……」
「家まで送る?」
「うん……うん……」
行く気ゼロの返事に、思わず苦笑する。
こんなふうに甘えられると、
それがかわいすぎて、理性がまた削られる
“抱きしめたい”が一瞬で頭を支配する。
でも――絶対に境界線は越えない。
越えたら終わる。
俺が壊れる。
布団を敷いて、そっと声をかける。
「ここで寝な。俺も明日朝イチで仕事だから寝るからね?」
「えー……こうちゃんごめんね。本当は無理させちゃった?…ゆいのこと嫌いにならないでね…?」
その言葉で胸がぎゅっと縮む。
嫌いになるわけがない。
むしろどんどん好きになっている。
言えるわけないのに、その本音が喉まで上がる。
「なんもだよ。大丈夫、嫌いになんてならないよ。」
本音なんて、その何倍も深いところにある。
「ねぇ……こうちゃんに会いたくなったら、また電話していい?」
「いいよ。仕事中で出れないときでも、必ずかけ直すから」
“呼んでほしい”
“忘れないでほしい”
そんな子供みたいな願いを必死に隠す。
「うん……こうちゃん大好き~。」
その言葉で一瞬理性が崩壊しかける。
彼女にとって自分は
“安心できる存在”——
“欲しい相手”とは少し違う気がした。
いや、冗談だって分かってる。
でも、その一言を独り占めしたくなる。
「はいはい。早く寝な笑」
「……いっしょに寝よー……笑」
――やめろよ。
そんなの、理性が持たない。
手を出したくなる。
その自分が本気で怖くなる。
「バカでしょ。ゆっくり寝な」
襖は閉めない。
唯が不安にならないように。
そして俺自身が、唯の気配を感じていたいから。
「おやすみ」
返事はない。
唯の寝息を確認して、小さくつぶやく。
「……おやすみ、唯」
唯は無邪気で、無防備で、危なっかしくて、
男を惹きつけることにまるで気づいてない。
放っておくことなんて出来ない。
――その全部に、俺の理性はずっと負けそうだ。
ただ傍にいたい。
守りたい。
他の誰にも渡したくない。
触れたい。
でも触れられない。
矛盾でもずるくてもなんでもいい…
そんな想いを、唯はまだ知らない。

