『君に届くはずのない声を、夜に胸に閉じ込めて』
ノートに走り書きした歌詞を見つめながら、妃那はイヤホンを耳に差し込む。
作曲アプリで仕上げたばかりの曲を再生し、静かな部屋に自分の旋律を響かせた。
「華音(はのん)」としてSNSに投稿したばかりのその曲。
誰かに届けばいい──そう願いながら、次の歌詞を書き込む。
そのとき、スマホが震えた。
画面に浮かんだ名前を見て、息が止まる。
《ritu.724 がコメントしました》
「……え?」
見覚えのあるアカウントだった。
慌てて、プライベート用のアカウントに切り替え、フォロー中の一覧を探す。
そして、一致するものを見つけた瞬間、心臓が跳ねる。
「……律くん……?」
片思い中の彼の名前が、そこにあった。
画面に浮かぶ名前を見て、妃那の心臓は跳ね続けていた。
ばれた?
いや、そんなはず……
でも、どうして律くんが?
頭の中が真っ白になり、指先が勝手に動く。
妃那は慌ててSNSのアカウントを切り替えた。
プライベート用──次々に開いては、フォロー中の一覧を探る。
「ritu.724」の文字を見つけた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
間違いない。
それは、片思い中の高橋律のアカウントだった。
「……どうしよう……」
スマホを握る手が震える。
思い切ってコメントを開いた。
そこには、たった一言。
「いい曲✨」
それだけだった。
SNSを見ていたら、よく見かける、誰かのダンス動画に「この人、同じ学校にいる」なんてコメントがつくこともある。
でも、律のコメントはそうじゃなかった。
ただ、曲を褒めてくれただけ──それが、ひとまずの安心につながった。
そして、片思い中の彼が自分の曲を聴いてくれているという事実。
その嬉しさに、頬がゆるむ。
妃那はベッドに寝転がり、スマホをぎゅっと抱きしめた。
「……やばい、顔……」
もし誰かに見られていたら、きっとめちゃくちゃきもい顔をしているに違いない。
でも今は、それすらどうでもよかった。
妃那は、机に戻り、勉強用として買ってもらったタブレットを開き、作曲アプリを起動する。
まずはギターを出してきて、試し弾きしながらひとつずつコードを打ち込む。
そしてピアノも開いて、試し弾きをして、Cコードから始まる進行に旋律を重ねる。
試しにワンフレーズ流してみると、イヤホンから流れる音に耳を澄ませながら、指先は止まらなかった。
学校の鞄を漁り、数学のノートを開く。
授業中にこっそり書いた歌詞を、さっき打ち込んだ旋律に乗せて口ずさんでみる。
そして、この曲でバイオリンとトランペットを使うか悩んだ末、今回はギターとピアノだけのシンプルな伴奏にすることに決めた。
けれど、妃那がそうやって迷いながら選べるのは、扱える楽器が多いからこそだった。
思い返せば──妃那が音楽に夢中になったのは、ずっと昔からだった。
幼い頃から「音楽がやりたい」と両親に無理を言い、ピアノとバイオリンを習わせてもらった。
鍵盤の響きに心を奪われ、弓を引くたびにに胸が高鳴った。
中学校に入学すると、吹奏楽部に入り、今度はトランペットに夢中になる。
先生に教わるだけでは足りず、独学で練習を重ね、いつしか自由に音を操れるようになった。
さらに、高校の音楽の授業でギターに触れたことがきっかけで、アコースティックギターにも挑戦。
コードを一つひとつ覚え、指先が痛くなるまで弦を押さえ続け、独学で習得していった。
だから今、妃那はギターもピアノも、バイオリンもトランペットも扱える。
妃那は再びタブレットの画面に視線を戻す。
指先でコードを並べ替え、ピアノの旋律を少しだけ修正する。
イヤホンから流れる音は、さっきよりも柔らかく、心に寄り添うように響いた。
「……おお、いい感じ」
小さく呟きながら、妃那はノートに書いた歌詞をもう一度口ずさむ。
旋律と歌詞が重なった瞬間、胸の奥が熱くなる。
律くんのことを思い浮かべると、片思いの気持ちが自然にメロディが頭の中に思いついていく。
妃那は夢中で画面を操作し、伴奏を整え、歌詞を打ち込み続けた。
イヤホンから流れる自作の旋律を最後まで聴き終えると、妃那はゆっくりと目を閉じた。
完成したばかりの曲が、もし律くんの耳に届いたら──そんな想像が胸を熱くする。
「……聴いてくれるかな……」
小さく呟きながら、ベッドに身を投げ出す。
スマホを胸に抱きしめたまま、妃那の頬は自然と緩んでいた。
もし誰かに見られていたら、きっと笑われるような顔。
だけど、律くんがこの曲を聴いてくれるかもしれない。
その想像だけで、心は満たされていく。
やがてまぶたが重くなり、妃那は静かに眠りについた。
夜の静けさの中、彼女の部屋は再び音楽で満たされていった。
ノートに走り書きした歌詞を見つめながら、妃那はイヤホンを耳に差し込む。
作曲アプリで仕上げたばかりの曲を再生し、静かな部屋に自分の旋律を響かせた。
「華音(はのん)」としてSNSに投稿したばかりのその曲。
誰かに届けばいい──そう願いながら、次の歌詞を書き込む。
そのとき、スマホが震えた。
画面に浮かんだ名前を見て、息が止まる。
《ritu.724 がコメントしました》
「……え?」
見覚えのあるアカウントだった。
慌てて、プライベート用のアカウントに切り替え、フォロー中の一覧を探す。
そして、一致するものを見つけた瞬間、心臓が跳ねる。
「……律くん……?」
片思い中の彼の名前が、そこにあった。
画面に浮かぶ名前を見て、妃那の心臓は跳ね続けていた。
ばれた?
いや、そんなはず……
でも、どうして律くんが?
頭の中が真っ白になり、指先が勝手に動く。
妃那は慌ててSNSのアカウントを切り替えた。
プライベート用──次々に開いては、フォロー中の一覧を探る。
「ritu.724」の文字を見つけた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられる。
間違いない。
それは、片思い中の高橋律のアカウントだった。
「……どうしよう……」
スマホを握る手が震える。
思い切ってコメントを開いた。
そこには、たった一言。
「いい曲✨」
それだけだった。
SNSを見ていたら、よく見かける、誰かのダンス動画に「この人、同じ学校にいる」なんてコメントがつくこともある。
でも、律のコメントはそうじゃなかった。
ただ、曲を褒めてくれただけ──それが、ひとまずの安心につながった。
そして、片思い中の彼が自分の曲を聴いてくれているという事実。
その嬉しさに、頬がゆるむ。
妃那はベッドに寝転がり、スマホをぎゅっと抱きしめた。
「……やばい、顔……」
もし誰かに見られていたら、きっとめちゃくちゃきもい顔をしているに違いない。
でも今は、それすらどうでもよかった。
妃那は、机に戻り、勉強用として買ってもらったタブレットを開き、作曲アプリを起動する。
まずはギターを出してきて、試し弾きしながらひとつずつコードを打ち込む。
そしてピアノも開いて、試し弾きをして、Cコードから始まる進行に旋律を重ねる。
試しにワンフレーズ流してみると、イヤホンから流れる音に耳を澄ませながら、指先は止まらなかった。
学校の鞄を漁り、数学のノートを開く。
授業中にこっそり書いた歌詞を、さっき打ち込んだ旋律に乗せて口ずさんでみる。
そして、この曲でバイオリンとトランペットを使うか悩んだ末、今回はギターとピアノだけのシンプルな伴奏にすることに決めた。
けれど、妃那がそうやって迷いながら選べるのは、扱える楽器が多いからこそだった。
思い返せば──妃那が音楽に夢中になったのは、ずっと昔からだった。
幼い頃から「音楽がやりたい」と両親に無理を言い、ピアノとバイオリンを習わせてもらった。
鍵盤の響きに心を奪われ、弓を引くたびにに胸が高鳴った。
中学校に入学すると、吹奏楽部に入り、今度はトランペットに夢中になる。
先生に教わるだけでは足りず、独学で練習を重ね、いつしか自由に音を操れるようになった。
さらに、高校の音楽の授業でギターに触れたことがきっかけで、アコースティックギターにも挑戦。
コードを一つひとつ覚え、指先が痛くなるまで弦を押さえ続け、独学で習得していった。
だから今、妃那はギターもピアノも、バイオリンもトランペットも扱える。
妃那は再びタブレットの画面に視線を戻す。
指先でコードを並べ替え、ピアノの旋律を少しだけ修正する。
イヤホンから流れる音は、さっきよりも柔らかく、心に寄り添うように響いた。
「……おお、いい感じ」
小さく呟きながら、妃那はノートに書いた歌詞をもう一度口ずさむ。
旋律と歌詞が重なった瞬間、胸の奥が熱くなる。
律くんのことを思い浮かべると、片思いの気持ちが自然にメロディが頭の中に思いついていく。
妃那は夢中で画面を操作し、伴奏を整え、歌詞を打ち込み続けた。
イヤホンから流れる自作の旋律を最後まで聴き終えると、妃那はゆっくりと目を閉じた。
完成したばかりの曲が、もし律くんの耳に届いたら──そんな想像が胸を熱くする。
「……聴いてくれるかな……」
小さく呟きながら、ベッドに身を投げ出す。
スマホを胸に抱きしめたまま、妃那の頬は自然と緩んでいた。
もし誰かに見られていたら、きっと笑われるような顔。
だけど、律くんがこの曲を聴いてくれるかもしれない。
その想像だけで、心は満たされていく。
やがてまぶたが重くなり、妃那は静かに眠りについた。
夜の静けさの中、彼女の部屋は再び音楽で満たされていった。



