教室には、夕焼けが静かに差し込んでいた。
授業が終わったあと、少しだけ残った生徒たちの声が遠くに響いて、まるで別の世界の話みたいに感じる。
心葉(ここは)はひとり、自分の席に座ってスマホを見つめていた。
画面には、開きかけたままのチャットアプリ「LIME」。
宛先はクラスメイトの名前――佐久間 悠翔(さくま はると)。
彼の名前の下に、書きかけのメッセージが表示されている。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「今日、隣の席に座ってくれてありがとう。
目が合っただけで、心臓がうるさい。」
 ̄ ̄ ̄ ̄
指が、送信ボタンの上で止まったまま動かない。
(ダメだ……無理)
そっとため息をついて、「キャンセル」→「下書き保存」と、いつもの流れでメッセージをしまいこむ。これでもう、いくつ目の“下書き”だろう。
画面には「未送信メッセージ:17件」と表示されている。
一度も送れたことなんてない。
彼は人気者だ。顔が良くて、バスケ部で、無駄に目立つタイプ。
でも、笑ってるくせに、なんだかいつもひとりぼっちみたいな顔をしている。
心葉が気づいたのは、隣の席になった4月からだ。
帰り道、イヤホンで音楽を聴きながら、心葉は歩いていた。
スマホを手にしたまま、無意識にLIMEのグループチャットを開く。
「2年B組」のグループでは、いつものように悠翔の名前が話題に出ていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄
吉田:おい悠翔!また告られたってマジ?w
鈴木:しかも3人目だろ?モテすぎだろ
悠翔:……(既読)
 ̄ ̄ ̄ ̄
(……そりゃそうだよね)
彼は誰かのことを好きになったりしない。
何度も告白されても、全部あっさり断ってるって、聞いたことがある。
しかも、好きな人がいるのかもっていう噂も流れてて、ワンチャン私がもって、告る女子も増えている悪循環。
(私がメッセージ送ったって、迷惑なだけ)
画面を閉じて、ポケットにしまう。
いつもそう。
気持ちを伝えるなんて、私には――できない。
夜。
ベッドの上に寝転んで、またLIMEを開いてしまう。
何度も何度も開いた下書き一覧。
そこには心葉の、誰にも見せたことのない気持ちが詰まっている。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「今日、声が少し低くてかっこよかった」
「悠翔くん、雨の日に傘貸してたよね。知ってるよ」
「わたし、悠翔くんのこと、好きです」
 ̄ ̄ ̄ ̄
(言えるわけ、ないよ)
スマホを持ったまま、心葉のまぶたがゆっくりと重くなる。
“気持ち”はまた今日も、ひとりぼっちのまま。
朝。
登校中の電車でスマホを見ると、1件の通知が届いていた。
「LIME:“悠翔くん”からメッセージが届きました」
(えっ……?)
慌てて画面を開くと、信じられないものが表示されていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄
📝送信済みメッセージ:
「今日、隣の席に座ってくれてありがとう。
目が合っただけで、心臓がうるさい。」
 ̄ ̄ ̄ ̄
(まって、なんで……!?)
それは、昨夜下書きに保存したはずのメッセージだった。
誰にも見せていない、見せるつもりなんてなかった、私の気持ち。
それが――送られていた。
電車の中で固まる心葉。顔が熱くなり、息がうまく吸えない。
(終わった……)
もう学校に行けない、そう思ったそのとき。
悠翔から、もうひとつのメッセージが届いた。
「……これ、送っていいやつだったの?」
心葉の手が震えた。
何も言葉が浮かばない。ただ、画面を見つめることしかできなかった。
そして、その数秒後。
「おれも、ずっと気になってた。」
――To be continued
授業が終わったあと、少しだけ残った生徒たちの声が遠くに響いて、まるで別の世界の話みたいに感じる。
心葉(ここは)はひとり、自分の席に座ってスマホを見つめていた。
画面には、開きかけたままのチャットアプリ「LIME」。
宛先はクラスメイトの名前――佐久間 悠翔(さくま はると)。
彼の名前の下に、書きかけのメッセージが表示されている。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「今日、隣の席に座ってくれてありがとう。
目が合っただけで、心臓がうるさい。」
 ̄ ̄ ̄ ̄
指が、送信ボタンの上で止まったまま動かない。
(ダメだ……無理)
そっとため息をついて、「キャンセル」→「下書き保存」と、いつもの流れでメッセージをしまいこむ。これでもう、いくつ目の“下書き”だろう。
画面には「未送信メッセージ:17件」と表示されている。
一度も送れたことなんてない。
彼は人気者だ。顔が良くて、バスケ部で、無駄に目立つタイプ。
でも、笑ってるくせに、なんだかいつもひとりぼっちみたいな顔をしている。
心葉が気づいたのは、隣の席になった4月からだ。
帰り道、イヤホンで音楽を聴きながら、心葉は歩いていた。
スマホを手にしたまま、無意識にLIMEのグループチャットを開く。
「2年B組」のグループでは、いつものように悠翔の名前が話題に出ていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄
吉田:おい悠翔!また告られたってマジ?w
鈴木:しかも3人目だろ?モテすぎだろ
悠翔:……(既読)
 ̄ ̄ ̄ ̄
(……そりゃそうだよね)
彼は誰かのことを好きになったりしない。
何度も告白されても、全部あっさり断ってるって、聞いたことがある。
しかも、好きな人がいるのかもっていう噂も流れてて、ワンチャン私がもって、告る女子も増えている悪循環。
(私がメッセージ送ったって、迷惑なだけ)
画面を閉じて、ポケットにしまう。
いつもそう。
気持ちを伝えるなんて、私には――できない。
夜。
ベッドの上に寝転んで、またLIMEを開いてしまう。
何度も何度も開いた下書き一覧。
そこには心葉の、誰にも見せたことのない気持ちが詰まっている。
 ̄ ̄ ̄ ̄
「今日、声が少し低くてかっこよかった」
「悠翔くん、雨の日に傘貸してたよね。知ってるよ」
「わたし、悠翔くんのこと、好きです」
 ̄ ̄ ̄ ̄
(言えるわけ、ないよ)
スマホを持ったまま、心葉のまぶたがゆっくりと重くなる。
“気持ち”はまた今日も、ひとりぼっちのまま。
朝。
登校中の電車でスマホを見ると、1件の通知が届いていた。
「LIME:“悠翔くん”からメッセージが届きました」
(えっ……?)
慌てて画面を開くと、信じられないものが表示されていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄
📝送信済みメッセージ:
「今日、隣の席に座ってくれてありがとう。
目が合っただけで、心臓がうるさい。」
 ̄ ̄ ̄ ̄
(まって、なんで……!?)
それは、昨夜下書きに保存したはずのメッセージだった。
誰にも見せていない、見せるつもりなんてなかった、私の気持ち。
それが――送られていた。
電車の中で固まる心葉。顔が熱くなり、息がうまく吸えない。
(終わった……)
もう学校に行けない、そう思ったそのとき。
悠翔から、もうひとつのメッセージが届いた。
「……これ、送っていいやつだったの?」
心葉の手が震えた。
何も言葉が浮かばない。ただ、画面を見つめることしかできなかった。
そして、その数秒後。
「おれも、ずっと気になってた。」
――To be continued


