午後の光が差し込む生徒会室。
窓の外で木々が揺れる音さえ、ここでは賑やかな会話にかき消されていた。

玲央がパソコンの前でカタリと椅子を引く。

「……アップデートが終了した。椿の血液型はO型みたいだな。
 ちなみに雨宮の血液型もOだ。」

生徒会室に、一瞬の沈黙。
そして——

「えっ!?美羽ちゃんと僕、同じなの~!?
 絶対相性いいじゃん!運命じゃん!……でも椿もOなのかよ~!ちっ!」

悠真は嬉しそうに笑い、しかしすぐに机に突っ伏して拗ねた。

遼は肩をすくめて笑う。

「おいおい、感情がジェットコースターすぎるだろ悠真くん~。」

悠真は涙目で遼の袖をつかむ。

「だってぇ……!僕だって美羽ちゃんと相性よくいたいじゃん……!」

「うるせぇ、抱きつくな。暑苦しい~。」

遼が足で押し返すと、悠真は床で転がった。

その横で、碧が腕立て伏せをしながら首を傾げる。

「そういえば……秋人くんは、何型、なんで、しょうねっ……?」

玲央・遼・悠真が、ぴたりと動きを止めて見つめ合った。

そして——

「「「あれは確実にABだろ。」」」

三人の声が揃う。
妙な説得力と統一感。

碧はタオルで汗をぬぐいながら、ぱちぱち瞬きをした。

「え?そういうものなんですか……?」

玲央は冷えたお茶を飲みながら冷静に言う。

「まず人の思考回路ではないし、予測不能だし、倫理観も独特だ。
 典型的AB気質だ。」

(※全国のAB型さん、これは事実ではありません、フィクションです。ごめんなさい。※)

遼は頷きながら、

「てか秋人って、普通の血液じゃなさそうだよな~。」

悠真はすでに震えていた。

「わかる……あの人、元は天使の皮を被った悪魔じゃん……。」

そんな黒薔薇メンバーの会話のすぐ裏で――






—その頃、ニューヨーク—

自由の女神を遠くに眺めるカフェテラス。
トロピカルジュースを片手に、金色の光の中で秋人が座っていた。

「くしゅ!」

秋人は可愛らしいくしゃみをして、オッドアイを瞬かせた。

「んー?だれか僕の噂してる?」

指先でグラスの氷をくるりと回しながら、
まるで世界の中心にいるかのような余裕の笑み。

「風邪かなぁ〜……まあ、いっか。」

秋人はのんきに空を見上げて微笑んだ。

どこかで美羽が彼の名前を叫んでいようと、
日本がバレンタインで大混乱していようと、
彼は今日も優雅にジュースを飲んでいた。






—さらにその頃、黒薔薇学園の教室では—

「やったーーっ!!」

莉子は机に雑誌をバンッと置いて跳ね上がった。

「今年のラッキーを運んでくれる人は……“保健室の男の子”!!
 うっそ!?私、今すぐ保健室行かなきゃ!!」

友達たちはドン引きしながらも、

「莉子ちゃん落ち着いて!?保健室って誰のこと!?」

「知らないけど行く!!運命は掴みに行くものなのっ!!」

莉子は雑誌を抱えて走り去っていった。

教室の窓から差し込む光が、ページの星座占いをキラリと照らしていた。




黒薔薇メンバーも、秋人も、莉子も。
それぞれの場所で、
それぞれのドタバタと恋と運命が日常として毎日を動かしていた。

美羽と椿が小さな秘密を交わしているその頃、
世界はこんなにも賑やかで、愛おしい。