1ヶ月だけ、君の隣で。

 文化祭まであと二週間。
 そして、恋人“設定”の期限まであと三週間。

 A組のフォトブース企画は、今日から本格的に準備が始まった。


「じゃあ背景布を貼る班と、小物作り班に分かれよー!」


 班長の号令に、教室がわっと賑やかになる。


「蓮くん、こっちの班来ない?」

「写真映えする小物作るから手伝ってほしい!」


 女子たちが蓮に群がるように声をかける。
 その中心で、蓮は一回だけ視線を奏へ向けた。
 奏は慌てて目をそらす。


(……蓮は人気者なんだから、私なんかに構ってたら変だよ)


 そう思っていたのに——


「俺は奏と同じ班で」


 蓮は当然のように言った。


「……また清水さん?」

「清水さん、柏見くんにくっつきすぎじゃない?」


 ざわっと女子たちの不満が広がる。


「べつに私、蓮と同じじゃなくても——」

「奏がいい」


 蓮は迷いも照れもなく断言した。
 教室の空気が、ぴきっと張り詰める。


「やっぱりさ。
 清水さんって、柏見くんに甘えてない?」

「フォトブースってみんなの企画なのに……」


 小さな声が、教室のあちこちから聞こえる。
 奏の心臓がぎゅっと縮まる。
 その瞬間——


「甘えてないよ」


 蓮が静かに言った。
 穏やかなのに、刺さるような声音で。


「奏は、頼りたいときだけ頼ってる。
 ……それに、俺がそばにいたいだけ。
 それでも、なんかある?」


 教室にいた全員が、黙った。


「……っ!」


 奏は思わず蓮の袖を引いて、小声で言う。


「やめて。
ほんとに……私のことで、また蓮が変に思われるから」

「気にしないって」

「私は気にするの!」


 声が震えていた。
 中学のときみたいに——

 誰かの怒りや嫌悪の矢印が自分に向くのが、どうしても怖い。

 蓮は少しの間だけ奏を見て、ふっと表情をゆるめた。


「……ごめん。
 でも、奏をひとりにするのはもっと無理」


 たったそれだけの言葉なのに、胸がしめつけられる。

(……期限付きの“恋人のふり”なのに)

 ふりなのに、どうして蓮はこんなふうに言えるんだろう。