放課後、A組の装飾チームは教室のすみで集まっていた。
「じゃあー、今日の作業分担だけど……材料の買い出し、誰が行く?」
班長の女子が紙を掲げると、すかさず声が上がる。
「蓮くん行ってくれたら助かる〜!」
「柏見くんと行きたい〜!」
黄色い声が飛ぶ中、蓮は迷いなく言った。
「じゃあ…俺、奏と行く」
静かだった教室が、ざわっと揺れた。
「え、清水さん……?」
「は?なんで清水ばっかり…」
視線が痛いほど集まる。
奏は思わず後ずさりした。
(……また。私のせいで雰囲気がおかしくなる)
言わなきゃ。
私は大丈夫だって。
違う子と行ってって。
「ちょ、ちょっと蓮——」
「行こう、奏」
蓮は奏の手首を軽くつまんで、そのまま立ち上がらせた。
女子の視線がさらに鋭くなる。
その空気を読み取った班長が、困ったように笑って言う。
「じゃ、じゃあ二人に買い出しお願いしまーす……」
教室のざわめきの中、奏は内心で何度もため息をついた。
(蓮の“当たり前”の行動が……私を困らせるんだよ)
でも、振り払えないのも事実だった。
必要な装飾品をいくつか買って、袋を提げて商店街を歩く。
「奏、疲れてる?」
「大丈夫だよ。私、体力はあるから」
「メンタルの話ね」
「……余計なお世話」
口ではそう言うのに、蓮の隣を歩いていると、気持ちが少しだけ軽くなる。
蓮はふいに足を止めた。
「ねえ奏。さっきの教室のこと、気にしてるでしょ?」
「……気にしてないよ」
「嘘つき」
優しいけど逃げられない声で、奏を見つめてくる。
「女子に何か言われそうで怯えてる顔、俺すぐ分かるから」
「怯えてなんか……」
「中学のとき、そうだったんじゃないの?
俺、違うから知らんけど」
その一言に、息が詰まる。
過去を直視したくなくて、視線を落とした瞬間——
「奏?」
背筋が凍りついた。
聞き覚えのある声。
顔を上げると——
そこには中学の同級生、浜辺さんが立っていた。
「久しぶりね。……奏」
その声が、あの頃の昼休みを思い出させる。
“奏のせいで、クラスの空気悪くなるんだよ”
胸の奥で、過去が小さく疼く。
「……ひさしぶり」
震える声で返した瞬間、蓮が奏の前へ一歩出た。
「誰?」
「あ……中学の同級生。でも、そんなに——」
「話したくなさそうだけど?」
蓮の声が静かに低くなる。
笑ってるのに、ぜんぜん笑ってない。
浜辺さんは苦笑し、蓮を見た。
「柏見くんでしょ? 転校してきた……。
噂聞いてるよ。人気者なんだってね」
「それより——奏に何か用?」
「別に。ただ声かけただけ」
「声かける必要ある?」
空気がぴりっと張りつめた。
奏は慌てて蓮の袖を引く。
「蓮、やめて……!」
蓮はようやく視線をそらす。
浜辺さんは苦笑して手を振った。
「……またどこかで。じゃあね、奏」
浜辺さんが去ると、蓮はすぐに奏の手を取った。
「大丈夫?」
「……うん。大丈夫」
「嘘つき」
「だいじょうぶだよ」
言葉とは裏腹に、奏の手は少し震えていた。
蓮はその手を包み込むように握り、ゆっくり歩き出した。
「奏。俺の前では、平気なふりしなくていいよ」
その優しさが、胸の奥をほどいていく。
「……蓮のこと、困らせちゃうよ」
「困ってない。むしろ、もっと頼って?」
蓮は横目で奏を見た。
「俺はさ、奏の全部を知ったうえで、そばにいたいから」
その言葉は優しすぎて、少し涙がにじんだ。
だけど奏は笑ってみせる。
「……ありがとう」
「うん」
蓮は照れたように目をそらしたけれど、
繋いだ手だけは離さなかった。
「じゃあー、今日の作業分担だけど……材料の買い出し、誰が行く?」
班長の女子が紙を掲げると、すかさず声が上がる。
「蓮くん行ってくれたら助かる〜!」
「柏見くんと行きたい〜!」
黄色い声が飛ぶ中、蓮は迷いなく言った。
「じゃあ…俺、奏と行く」
静かだった教室が、ざわっと揺れた。
「え、清水さん……?」
「は?なんで清水ばっかり…」
視線が痛いほど集まる。
奏は思わず後ずさりした。
(……また。私のせいで雰囲気がおかしくなる)
言わなきゃ。
私は大丈夫だって。
違う子と行ってって。
「ちょ、ちょっと蓮——」
「行こう、奏」
蓮は奏の手首を軽くつまんで、そのまま立ち上がらせた。
女子の視線がさらに鋭くなる。
その空気を読み取った班長が、困ったように笑って言う。
「じゃ、じゃあ二人に買い出しお願いしまーす……」
教室のざわめきの中、奏は内心で何度もため息をついた。
(蓮の“当たり前”の行動が……私を困らせるんだよ)
でも、振り払えないのも事実だった。
必要な装飾品をいくつか買って、袋を提げて商店街を歩く。
「奏、疲れてる?」
「大丈夫だよ。私、体力はあるから」
「メンタルの話ね」
「……余計なお世話」
口ではそう言うのに、蓮の隣を歩いていると、気持ちが少しだけ軽くなる。
蓮はふいに足を止めた。
「ねえ奏。さっきの教室のこと、気にしてるでしょ?」
「……気にしてないよ」
「嘘つき」
優しいけど逃げられない声で、奏を見つめてくる。
「女子に何か言われそうで怯えてる顔、俺すぐ分かるから」
「怯えてなんか……」
「中学のとき、そうだったんじゃないの?
俺、違うから知らんけど」
その一言に、息が詰まる。
過去を直視したくなくて、視線を落とした瞬間——
「奏?」
背筋が凍りついた。
聞き覚えのある声。
顔を上げると——
そこには中学の同級生、浜辺さんが立っていた。
「久しぶりね。……奏」
その声が、あの頃の昼休みを思い出させる。
“奏のせいで、クラスの空気悪くなるんだよ”
胸の奥で、過去が小さく疼く。
「……ひさしぶり」
震える声で返した瞬間、蓮が奏の前へ一歩出た。
「誰?」
「あ……中学の同級生。でも、そんなに——」
「話したくなさそうだけど?」
蓮の声が静かに低くなる。
笑ってるのに、ぜんぜん笑ってない。
浜辺さんは苦笑し、蓮を見た。
「柏見くんでしょ? 転校してきた……。
噂聞いてるよ。人気者なんだってね」
「それより——奏に何か用?」
「別に。ただ声かけただけ」
「声かける必要ある?」
空気がぴりっと張りつめた。
奏は慌てて蓮の袖を引く。
「蓮、やめて……!」
蓮はようやく視線をそらす。
浜辺さんは苦笑して手を振った。
「……またどこかで。じゃあね、奏」
浜辺さんが去ると、蓮はすぐに奏の手を取った。
「大丈夫?」
「……うん。大丈夫」
「嘘つき」
「だいじょうぶだよ」
言葉とは裏腹に、奏の手は少し震えていた。
蓮はその手を包み込むように握り、ゆっくり歩き出した。
「奏。俺の前では、平気なふりしなくていいよ」
その優しさが、胸の奥をほどいていく。
「……蓮のこと、困らせちゃうよ」
「困ってない。むしろ、もっと頼って?」
蓮は横目で奏を見た。
「俺はさ、奏の全部を知ったうえで、そばにいたいから」
その言葉は優しすぎて、少し涙がにじんだ。
だけど奏は笑ってみせる。
「……ありがとう」
「うん」
蓮は照れたように目をそらしたけれど、
繋いだ手だけは離さなかった。



