この空の青を、君は知らない


廊下を歩きながら、少しだけ足が速くなる。

さっきまで感じていた重さを、忘れたみたいに。

天音の病室の前で、足を止める。
小さく息を整えて、扉を軽くノックする。

「……どうぞ」

中から、聞き慣れた声がした。

扉を開ける。

「遥人?」

屋上とは正反対の、暗い部屋。
そのベッドの上で、天音がこちらを見て目を丸くし、それから口元を綻ばせる。

「どうしたの?」

少しだけ迷ってから、手に持っていた紙を差し出す。

「これ」

「え……?」

「昼の、空……」

天音はそっと受け取って、ゆっくりと視線を落とす。

天音は顔を上げ、目線をあわせる。

「……青くて、眩しいね」

頬を緩め、目を細める。
まるで、そこに光があるみたいに。

その声は少し震えていた。

瞳には、きらきらとした光が宿っていた。

天音は、ふいに窓のあるはずの方向に視線を向ける。

「これが……昼の空、なんだよね」

そう言って、もう一度、絵を見つめた。

大事そうに、抱きしめるみたいに持つ。

胸の奥が、ゆっくりとほどけていく。

言葉は出てこなかった。

覆い隠された窓の外では、きっと今も同じように青が広がっている。

届かないはずの光が、ここには確かにある気がした。