弾むような足音が、夜の階段に響く。
少し重たい体に反して、足取りだけは軽かった。
肩にかけた鞄には、昨夜の絵が綴じられたスケッチブックが入っている。
天音、どんな反応するんだろ。
目を輝かせて、笑ってくれる。
そんな姿を思い浮かべて、気づけば口角が上がっていた。
扉を押し開け、屋上に足を踏み入れる。
「天音!」
呼びかけた声は、そのまま夜に溶けていった。
見渡してみても、そこに天音の姿はない。
……あれ?
まだ来てなかったのか。
今日は、少し早く来すぎたかもしれない。
まったく、どれだけ見せたいんだよ……
そう思うと可笑しくなって、ひとりで小さく笑った。
いつものように腰を下ろし、筆を取ろうとして、ふと手を止める。
鞄に伸ばしかけた手を、そのまま引っ込めた。
次の空を描く前に、どうしても見てほしかった。
昨夜の。
そして、今朝の。
夜明けの空を。
瞼を閉じると、暁の色が鮮明によみがえる。
——天音、早く見に来なよ。
そう思いながら、待っていた。
けれど、その夜、扉が開くことはなかった。
どうしたんだろ。
忙しいのかな。
胸の奥に浮かんだ小さなざわめきをそっと押し戻す。
明日でいい。
今日じゃなくても。
別に、今日会えなくたって、また明日会えばいい。
僕らのこの時間は、きっと、まだ続くはずなんだから。
手すりにもたれていた体を起こし、屋上を後にした。

