一葉晴花、高校一年生。
只今お出かけ帰りの駅のホームにて、不良に絡まれてます⋯!
「なぁなぁ、君かわいいね〜。ちょっと俺らと遊ばね?」
そう話しかけてくるガタイの良い、ザ・不良!みたいな二人組。
そんな人達がニヤニヤしながら話しかけてきたら、そりゃもう怖い!!
「ご、ご遠慮しますっ⋯!」
「え〜?ご飯も奢るし好きなところ行かせてあげられるのに?」
「ほ、ホントに大丈夫です⋯。」
「そんな事言わずにさ〜。遊ぼうぜ〜?」
「そうそう、俺らとたのしーことしよー?」
不良たちがだんだん近づいてくる。
ひぃぃぃ!怖いよぉぉぉ!来ないでぇぇぇ!
そう叫べればいいのに、目の前の二人組が怖すぎてできない。
できるわけがない!!
ていうか何でこの人たちは私に構うの!?
絶対他の人が良いでしょ!
あぁ、そしたら他の人(美人)が怖い思いをしちゃう⋯!
じゃあ私でよかったかも…?
って、そんな事考えてる場合じゃないんだよぉ!!
「き、急用があるので⋯!」
そう言って逃げ出そうと背中を向けるも、ガシッと腕と肩をそれぞれ掴まれる。
っひゃぁぁぁぁぁ!!二箇所掴まれたぁぁぁぁ!!
ゾワッと毛が逆立つ。
「おめー、逃げんじゃねーよ。」
「ひっ……!」
振り返ると、二人は怒ったのかめちゃくちゃ圧が強くなっていた。
いやこんなんで怒んないでよ…!
ていうか、私圧強いのだけはホントに無理なんだよぉ!
怖くてギュッと目を瞑る。
誰か、助けて……!!
そのときドカッと音がして、同時に掴まれていた所から手が離れた。
驚いて目を開けると、目の前に大きな背中とさっきの不良が一人倒れていた。
「年上のくせに何してんのー?」
聞いたことあるような無いような落ち着く声。
ダボッとした黒いズボンに茶色いブカブカな上着を来て、黒いキャップをかぶった、ユルッとしてそうな男の人だった。
だ、誰…!?
「誰だテメー!!関係ないやつは引っ込んでろよ!!」
「ヤダねー。だってお前ら、この子を連れ去る気でしょ?」
倒れた不良はまだ動けるのか、むくりと立ち上がる。
やっぱりめっちゃ怒ってるー!!
ていうか私を連れ去るの!?
こんなバカを!?
っていやいや、そんなことはさすがに無い………
「ちっ、あぁそーだよ!!」
そんなことあったー!!
「だから怪我したくなかったらサッサと消えろよ!」
「だからヤダって言ってるじゃん。」
この人めっちゃ強気だ!!
でも怪我はしてほしくない!
「っテメー。ちょっとはやられねーと気が済まないみてーだなぁ!」
ほらっ、不良がブチギレちゃったよ!
早く逃げ……
「おいちょっと待て。」
「何だよ!俺は早く殴りたくてしゃーねーんだよ!」
今まで黙っていたもう一人が鋭い視線を目の前の男の人に向ける。
「お前、裏で至上最強の不良って呼ばれてる"當野宝"か?」
當野、宝……。
って、どこかで聞いたことあるような……。
その"當野さん"をチラッと見る。
「せーかい。よくわかったね〜?」
「やっぱり!」
「ま、マジかよ…!」
本物だってわかった瞬間たじろぐ不良たち。
いや、さっきまでの威勢はどうした!
あと、さっきバカにされてなかった!?
そうツッコんじゃうくらいに態度が変わった。
同時に當野さんの纏う空気がズンッと重くなる。
當野さんは、二人に一歩詰め寄った。
「だから早くどっか行ってくんない?」
當野さんの声は最初に聞いた時とはほとんど変わらないのに、怒りがこもっていた。
そのまま、二人の肩を引き寄せて、耳元でささやいた。
「じゃないとどーなるか、わかってるよね?」
と。
それは、守られてる私でさえ怖いと思うほどの脅しだった。
二人は完全におびえて全速力で逃げて行った。
當野さんは、ゆるゆると手を振っていた。
いや、さっきまでめっちゃ怖かったじゃん!?
すごい変わりよう……。
っそんなことより、終わったの?
「あ、あのぅ……。」
「あ、もう大丈夫。しばらくは手を出してこないはずだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、足の力が抜けてフニャッと座り込んじゃった。
よ、よかったぁぁぁぁ!!!
當野さんがいてくれてよかったぁぁ!!
當野さんが目の前にしゃがんでくれる。
「だいじょーぶ?どっかケガしてた?」
「だ、大丈夫です!ケガはないです!」
お礼言わなきゃと思って顔を上げると。
「っ、え?」
「ん?どーしたの?一葉さん。」
當野…"くん"?
當野くんとはクラスメイトで、あんまり話したことがない。
けど、隠れイケメンだってちょっと騒がれてたから覚えてる。
ズバッと顔を下げる。
ん????
"當野さん"って、"當野くん"だったの??
今まで、同姓同名の別人かと思ってた。
いやでも、あのいつも大人しい當野くんが至上最強の不良ってことになるよ!?
えっ、そんなことある……?
……いや、さすがに…………。
「……さん。…つばさん!一葉さん!!」
「わぁぁぁ!!!び、びっくりしたぁ!!」
「急に黙り込んでどーしたの。」
「えっ、えっと……。君、當野くん……?」
「は……?」
當野さんが、意味が分からないとでも言うような表情でこっちを見てくる。
ひぃぃ!やっぱり違うかった!?
「えっと……、クラスメイトと顔が似ていて、もしかしてって思ったんですけど違いました………?」
當野さんは、驚いたように目を見開いた。
だんだん自信がなくなってきて、顔が下がっていく。
なになになになに!!!
こわいこわいこわいこわい!!!
なんか答えてよぉ!!!
なんて願いは通じることもなく、ガッと手首を掴まれ、半ば無理やり立たされる。
「ちょっとついてきて。」
「わっ!って、え?」
ついてきて……?
まさか、さっきの人みたいに連れ去る気じゃ!
そう思って後ずさる。
でも、逆にもっと近づかれて耳元で囁かれる。
「連れ去らないから安心して。ここじゃ説明できないから。」
色んな人が見てるしね、って。
周りをみるとさっきまで人が少なかったのに、今は十五人くらいこっちをみていた。
私たちこんなに注目されてたんだ。
人に見られてたら説明できないの…?
まさか人に言えないこと!?
いや、それはフツーにあるか。
「わかった?」
顔を覗き込まれて思わずコクンと頷いてしまった。
「じゃあいくよ。」
グイッと腕を引かれる。
って、頷いちゃった!!
……まぁ、ちょっと気になるし、掴まれた腕も振り払えそうにないからついていくかぁ…。
いつも急に来る謎の諦めが発動した。
いつも最後はなんとかなってるし、今回も大丈夫か!
そう思うことにして、"當野さん"か"當野くん"か分からない人についていった。
✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱……✱
「ついたよ。」
着いたところは、駅から歩いて二分くらいのところにある小さなアパートだった。
「……え、ここ!?」
「うん、ここが一番安全なんだ。」
へー、そうなんだぁ……。
じゃなくて!
「もしかして、君の家…?」
「ん?どーだろーね。」
マジだ……。
「あぁ、安心して。手は出さないから。」
「え、なに、こわいんだけど!?」
「あれ?意味分かってない感じ?」
「……?うん。よく分かんない!」
「純粋だな……。」
「ん?今なんて言ったの?」
「いや?ただの独り言〜。」
「ふーん。独り言大きいんだね〜!」
「一葉さんよりマシだと思うけどね〜。とりあえずいくよ。」
私よりマシ?
私、そんなに独り言大きいかな?
戸惑いながら部屋までの階段を上がった。
當野さん(?)は202号室の前で止まって鍵とドアを空けた。
ていうか今気づいたんだけど、男の人の部屋にはいるの初めてなんだけど!!
気づいた途端に緊張してくる。
「さ、入って。」
「ううう、うん!!」
「……なに?緊張してんの〜??」
「いいいいや?ぜぜ、全然だよ!!」
「その割にすごい噛んでるけどねぇ。」
「き、きっと聞き間違いだよ!」
「ふふっ!そーゆーことにしといてあげる。とりあえず早く中入って〜。」
「……はい。」
完全にからかわれてる……!!
私は、ムスッとしながら中に入る。
うわぁ……!
少し狭めの部屋の中は白で統一されていて、漫画や文庫本がたくさん入った大きな本棚、その近くに筋トレ用の器具が並んであった。
そして、きれいに整えられたベッドに小さな丸い机が置いてあった。
正反対なものが並んでるとちょっと面白く見えてきて、くすっと笑う。
「ちょっと、なに笑ってるの?失礼なんだけど?」
ムッスーとしててちょっとかわいい。
「ご、ごめん!あまりに正反対なものが並んでたからつい……。」
「まぁいいけど。とりあえずテキトーに座ってて。」
怒ったみたいでちょっと塩対応になる。
私ははーいと返事をして小さい机の前に座る。
當野さんは、上着と帽子を脱いでお茶を出してくれた。
自然と當野さんと向かい合う形になった。
「さてと…。一葉さん、俺に色々質問あるでしょ?」
そうだった!
「うん!聞いてもいい?」
「いーよ。ていうかそのために連れてきたんだからね〜。」
「へー。じゃあ遠慮なく。」
「どーぞ。」
さっと鞄からメモ帳とペンを取り出す。
當野さんは、私のガチめの行動にちょっと引いているみたい。
ひどいなあ。
「君は、クラスメイトの當野宝くんで合ってますか?」
「はーい。あってま〜す。」
「やっぱり…。」
これで間違えてたらめちゃくちゃ恥ずかしかったよ!
私の記憶とカン、よくやった!
「助けに入った時、すでに気づいてると思ってた。」
「えっ!なんで!?全然気づいてなかったよ!」
なんなら名前が出てきても全然別人かと思ってたくらいだった。
「そーみたいだね。で、次は?」
「あぁ。じゃあ、當野くんは、ホントに至上最強の不良なの?」
「うん。でも、不良"だった"ってほうがいいかもね。」
不良……だった?
「今は違うの?」
「そ。もう足は洗ったよ。」
「へー。なんで?」
「まー簡単に言ったら、"飽きた"ね。」
「あ、飽きた……?それに飽きるって概念あるの……?」
「いーや?あるのは多分俺だけ。」
「そ、そうなんだね……。ははっ…。」
この人、ちょっと変わってるなぁ……あはは。
でも、そういう人ほど面白かったりするからすごく興味が湧く!
「ねぇ、俺も質問していい?」
「え、全然いいよ!」
なんだろう?
別に自由に質問してくれてもいいのに。
「じゃあ、なんで一葉さんは全然目を合わせてくれないの?」
「え?」
それ?
「え、えっと。昔から人と目を合わせるの、苦手なんだぁ…。」
「ふーん。寂しくないの?」
寂しい…?
「どうだろ?今まで考えたことなかったや。」
「へー。俺は目を合わせてくれないと寂しーってなるなぁ。」
當野くんは、そう言いながら私の頬に両手を添えて、無理やり視線を合わせる。
いつもならすぐに視線を逸らすのに、できなかった。
あまりにも當野くんがあまりに綺麗すぎたから。
綺麗な輪郭に、白い肌。
意地悪そうに笑う薄い唇。
そして、たれ気味の目から覗く、少し赤みがかった綺麗だけど鋭い瞳。
私はその瞳から逃れられなかった。
綺麗……。
「ふふっ、もしかして俺に見とれてる?」
私はその瞳に捉えられたまま、コクリと頷く。
「……!そこは素直なんだね。」
當野くんはゆっくり両手を離してくれた。
はっ!私、今………。
急に恥ずかしくなってきて、バッと顔を覆う。
私、なにしてんのよ!!
「なに?今さら恥ずかしくなったの〜?」
「わぁぁ!見ないで!!」
「やだねー。」
當野くんは、私の腕をつかんで降ろそうとしてくる。
必死にもがくも、當野くんも男の人なので当たり前に負け、顔をみられる。
絶対恥ずかしさで真っ赤だよぉ!
反射的に顔を逸らす。
「………っ!」
「え……?」
笑われると思ったのに、聞こえてきたのは戸惑いの声だった。
なに!?
ちらりと當野くんをみる。
……え?
どういうこと?
當野くんは、頬を赤らめて固まっていた。
しかも驚いたような表情のままで。
「おーい、當野くーん?どうしたのー?」
當野くんを覗き込むと、掴まれていた腕を離され、顔が見えないように逸らされた。
「……何でもない。」
「いやいや、それはないでしょ。」
「いや、本当になんもないから!ちょっと離れて…!」
當野くんにグイッと押し戻される。
「お茶入れてくる…!」
當野くんはそそくさとキッチンに消えていった。
あー!!!!逃げられたー!!!
もうちょっと見たかったのになー。
可愛いかったな〜。
少しして、當野くんが戻ってきた。
そしてそのまま私の隣に座った。
「え?なんで隣?」
「いーじゃん。なんか嫌なの?」
グイッと顔を寄せてくる。
ち、近っ…!
「い、嫌じゃないけど……。」
「じゃあいいよね〜。」
ぅ〜!いいけどよくないよ〜…。
だって、こんな綺麗な人が私の隣に座ってるんだよ?
さっきは距離があったからまだ良かったけど、今は肩が触れそうなくらい近い!
心臓持つ気がしない……!
「そーだ、一葉さん。」
「なな、なに?」
「……一葉さんってこんなので緊張するんだー。」
「しっ、してない!……多分。」
「……やっぱ一葉さんって男に対する免疫ほとんどないよねー。」
ギクゥ!
やっぱりバレた……。
そう、私はこう見えて男子が少し苦手。
もうちょっと仲良くしろって言われても、みんななに考えてるか分かんないもん!
「しょうがないよ!」
「ふーん。」
「…………。」
「まあいいや。とりあえず、今日のことは誰にも言うなよ?」
急な命令口調に驚く。
さっきまでゆるゆるだったのに。
「え……?お母さん達にも…?」
「もちろん。だって、俺もう不良じゃないから普通に過ごしたいじゃん。俺の普通の暮らしのためだから、お願い。」
「うっ……。」
この人、自分の顔をうまく使ってる……!
こんなに可愛い顔でこんなお願いされたら断れないじゃん!
「わかったよ〜。」
「やった〜!ありがとね〜。」
「無意識のうちにしゃべってたらごめんね。」
「……。」
「どしたの?急に黙り込んで。……わぁっ!」
當野くんをみた途端、腕を引っ張られて耳元で囁かれた。
「もし言ったら…、さっきのナンパ野郎に引き渡すから。」
ひっ……!
「いつでも渡せるように見とかないとね〜?」
こ、こわっ!
當野くんは、私から顔を離してニッコリと笑った。
もしかして、マジですか…?
「学校でも、よろしくね?」
私は明日の学校に、初めて行きたくないと思ったのであった。

