気まぐれヒーロー3




それに……ハイジは、お父さんに虐待されていたって……。


愛してもらえなかったの?

愛してほしかった手は、痛みしか返してくれなかったの?


ケイジくんもハイジも、早くにお母さんを亡くしている。

私とはまったく違う道を歩いてきた、二人の生い立ち。

確かにそれは、彼らの背負ってきた現実なんだろう。

でも、私には──。



「ケイジくん、いいよ……辛いでしょ?」



自分の声が、風に吹かれれば今にも消えそうな蝋燭の火みたいだと思った。

それぐらい弱々しかった。


ケイジくんの視線が、静かに私へ向けられる。

彼はただ黙って、聞いてくれていた。



「話すの、しんどいよね?だって……聞いてる私でさえ胸が苦しくなるのに、ケイジくんはもっと……」



語り口が冷静だったとしても。

ただ事実を積み上げているだけに見えたとしても。


その奥には、きっと消えずに残った想いがあって。

彼の痛みを、私が測れるはずなんてない。


傷をえぐってしまうんじゃないかって……。


それなのに──



「俺はええねん」



ケイジくんは私の肩に、そっと手を置いた。

あたたかくて、心の芯を支えてくれるような手だった。

私を安心させようとしてくれる、優しい温もり。



「アイツのために、聞いたって」



柔らかく笑ったケイジくんの瞳が、なぜか寂しく思えたのは──



“空にしか居場所がなかったんは、ジローちゃんだけやない。ハイジも、同じやった”



散る花びらみたいに、彼の言葉が儚かったからかもしれない。


初めてハイジと出会ったのは、学校の屋上だった。

人生初の告白を一部始終聞かれ、しかもこっぴどくフラれて大失恋した直後の、最悪な出会い。



“やっべ、俺すげえもん見ちまったか”



笑いながら現れた、嫌なヤツ。
最低で、無神経で、絶対関わりたくなんかない。

それがハイジの第一印象だった。


だけど、知っていくうちに──
アイツの色んな顔を見ていくうちに、少しずつ塗り替えられていった。

私の、アイツを見る目が。


あのとき、ハイジはどうしてあの場所にいたんだろう。


ただサボってたんだと思ってた。

深い理由なんて、ないんだろうって。