それに……ハイジは、お父さんに虐待されていたって……。
愛してもらえなかったの?
愛してほしかった手は、痛みしか返してくれなかったの?
ケイジくんもハイジも、早くにお母さんを亡くしている。
私とはまったく違う道を歩いてきた、二人の生い立ち。
確かにそれは、彼らの背負ってきた現実なんだろう。
でも、私には──。
「ケイジくん、いいよ……辛いでしょ?」
自分の声が、風に吹かれれば今にも消えそうな蝋燭の火みたいだと思った。
それぐらい弱々しかった。
ケイジくんの視線が、静かに私へ向けられる。
彼はただ黙って、聞いてくれていた。
「話すの、しんどいよね?だって……聞いてる私でさえ胸が苦しくなるのに、ケイジくんはもっと……」
語り口が冷静だったとしても。
ただ事実を積み上げているだけに見えたとしても。
その奥には、きっと消えずに残った想いがあって。
彼の痛みを、私が測れるはずなんてない。
傷をえぐってしまうんじゃないかって……。
それなのに──
「俺はええねん」
ケイジくんは私の肩に、そっと手を置いた。
あたたかくて、心の芯を支えてくれるような手だった。
私を安心させようとしてくれる、優しい温もり。
「アイツのために、聞いたって」
柔らかく笑ったケイジくんの瞳が、なぜか寂しく思えたのは──
“空にしか居場所がなかったんは、ジローちゃんだけやない。ハイジも、同じやった”
散る花びらみたいに、彼の言葉が儚かったからかもしれない。
初めてハイジと出会ったのは、学校の屋上だった。
人生初の告白を一部始終聞かれ、しかもこっぴどくフラれて大失恋した直後の、最悪な出会い。
“やっべ、俺すげえもん見ちまったか”
笑いながら現れた、嫌なヤツ。
最低で、無神経で、絶対関わりたくなんかない。
それがハイジの第一印象だった。
だけど、知っていくうちに──
アイツの色んな顔を見ていくうちに、少しずつ塗り替えられていった。
私の、アイツを見る目が。
あのとき、ハイジはどうしてあの場所にいたんだろう。
ただサボってたんだと思ってた。
深い理由なんて、ないんだろうって。


