“知らねえだろ、お前は。出逢う前のアイツを”
ジローさんの声が、頭の中で鮮明に蘇る。
「ガキの頃、両親が離婚してな。俺は母親に、ハイジは父親に引き取られた。アイツは長男やから」
でも……私の耳に届くケイジくんの声が、やがてすべてを塗りつぶしていく。
──って。
今、ケイジくん……。
「へ?ハイジが長男?ケイジくんじゃなくて!?」
「いや、驚くとこそこなんかい!長男いうてもほんの数分の差やで」
思わずぽかんと見返してしまったからか、ケイジくんはまたうひゃひゃと笑い出した。
いや、双子なんだし兄弟に差なんてほぼないのはわかってるけど。
それでも──どっちが“兄っぽい”かと言えば、私はケイジくんな気がしていたから。
意外だったんだ。
彼の言う通り、本気で驚くべきところはそんな部分じゃないはずなのに。
「そんで、その後親父が転勤なって。ハイジは親父と一緒にこっちへ引っ越してきてん。せやしアイツが関西におったんは、ほんのちょっとだけやねん」
ああ……そういうこと、か。
幼い頃に両親が離婚して、それぞれ引き取られ、離れ離れで暮らしていた。
でも、ケイジくんはお母さんと関西で暮らしていて……今ここにいるってことは──。
「死んだよ、母親は。……病気でな」
私が理由を尋ねる間もなく、ケイジくんは静かに告げた。
抑揚のない声で、感情をひとつも滲ませず。
「だから、俺も親父とアイツと暮らすことになった」
ケイジくんは、まるで透明の台本があるかのように。
綴られた物語を、朗読するかのように。
淡々と言葉を積み重ねていく。
刺されたと、言った。
ハイジに……実の兄に。
家族なのに引き離され、同じ屋根の下で住むことも叶わなかった。
兄に会えず、お父さんにも会えず。
ハイジも弟に会えず、お母さんにも会えず。
ずっとバラバラだったんだ。


