瞬間、体が硬直した。
ケイジくんの瞳ががらりと色を変え、艶めいた気配を帯びる。
怖い。
こんな風に一瞬で、まったく別の仮面にすり替えてしまう彼が。
触れられた指先から、じわりと侵食してくる熱。
逃げなきゃ──そう思った。
「ケイジくん、私を連れ出したのはその話をするため……?でも、どうして私にそんなことを……?」
このままでは引き込まれて、甘い毒牙にかけられてしまいそうで。
私は平静を装いながら、そっと彼の手から身を離した。
「アイツが……マジやからや。あんたに」
雀が、愛らしく鳴いている。
だけどそんな歌声さえも──ケイジくんの凍えるような眼差しが、かき消してしまう。
「俺はあんなハイジ、見たことない」
恐怖を覚えたのは一瞬だけ。
直後、彼の目から冷たさはふっと消えた。
「あんたに惚れてんのか、それとも──。ハイジが何を思てんのかまでは、わからん」
視線を落とした彼の睫毛が、下まぶたに長い影を落とす。
その横顔を、私は黙って見つめていた。
ケイジくんは口を閉ざし、しばらくそうしていた。
そして──
「けど、これだけははっきり言える。アイツにとって、ももちゃんは“特別”やってこと」
怖かったのは……恐れていたのは、
きっとこれだったのかもしれない。
もう、ざわめくのが樹木の葉のこすれる音なのか、湖面の波立つ音なのか、それとも私の心臓の音なのか。
それすら朧げで。
「……俺らは、もともと関西に住んどったんよ。小学校あがるまではな」
私はただ、彼らの遠い日の話に耳を傾けるしかなかった。


