「さんふじん、か……?」
ジンジンする鼻の頭をさすっていると、飛野さんがハンドルを握ったまま、錆びたロボットみたいなぎこちない動きで振り返ってきた。
その極限まで見開かれた目を見れば、飛野さんがかなり動揺しているのは明らかだ。
居たたまれなくなって、私は視線を逸らした。
タイガは興味なさげにスマホを弄っている。
「花鳥、ちょ、ちょっと待て。何でそんなトコ行かなきゃなんねーんだ」
「あの、その、私……言いにくいんですけど」
昨日、ジローさんが口にした言葉。
“元気な子を、生んでくれ”
その時は聞き流したけど、帰ってからよく考えたら……怖くなってきた。
私、赤ちゃんがどうやってできるか、とか……その、本当にぼんやりとだけど知識はある。
でも。そういうコトに関して、未知の部分が多くてあやふやすぎる。
私、ジローさんとお風呂入っちゃったりしたし。
む、胸まで触られちゃったし。
そんなのでも、もしかしたら……妊娠、したりとか……あったらどうしようって。
知らないことだらけだから、めちゃくちゃ不安になった。
「赤ちゃん、できちゃったかもって……」
「いや、待った!!待ってくれ!!えーっと……まあ落ち着け!落ち着こう!!な!?大丈夫だ、時間はまだある!!」
飛野さんは、こっちが心配になるくらい焦っていた。
一番取り乱していた。
「その……相手は、誰なんだ」
「それが……わからないんです、誰の子なのか」
「っ!!!!」
うわっ!!
飛野さん、仰天しすぎて顔が阿修羅像みたいになってる!!
だ、だってわからない!!本当に!
ジローさん何も言わなかったし!!!
「黒羽アァ!!」
「おあっ!?」
ついに飛野さんの脳が容量オーバーしたらしい。
ぷっつんした。
隣のタイガの胸ぐらを恐ろしい剣幕で掴み、今にも殴りかかりそうになっていた。
彼は途轍もない誤解をしているみたいだった。
「お前ってヤツは……!!見損なったぞ、どこまで見境ねえんだ!!!ヤれりゃあ何でもいいのか!!てめえの子孫で日本が乗っ取られんのだけは、俺は我慢できねえ!!」
「何言ってんだアンタ!!俺はこう見えて慎重なんだよ、んなヘマすっか!!」


