遮蔽(しゃへい)物がない駅の3番ホームには、冬の冷たい風が容赦なく吹き付けてくる。

手袋も何もしていないむき出しの手をこすり合わせていると、電車がホームに滑り込んできた。

風圧で、私の髪と純白のプリーツスカートがばたばたと暴れた。

無意識に雪ノ瀬さんの方に目をやると、彼女の制服も風に踊っていた。

無造作なレイヤーの入った長い髪が気まぐれに暴れているのをこっそり拝んでいると、「絆、ちょっとごめん」と言って雪ノ瀬さんが私の右手首をつかんだ。

そして彼女は、呆然としていた私をホームの端の方に誘導した。

雪ノ瀬さんにつかまれた右手首を、冷たい左手でそっとなでると「乗るよ!」と彼女の声が一直線に私に届いた。

駆け込み乗車はおやめください、とか言われているけど、今日ばかりはちょっと駆け込んで、電車に乗り込んだ。

「ねえ、絆は最寄りどこなの?」

「K駅。雪ノ瀬さんは?」

私たち2人は空いていた椅子に座り、電車に揺られながら小さな声で話す。

「M駅。あと、雪ノ瀬さんって言われるの嫌だから茉莉花(まりか)って呼んで」

「ま、茉莉花?」

まりか(・・・)という3文字を口に乗せただけで、胸の奥がくすぐったい。

小さな羞恥心をごまかすように俯くと、よくできました、と前髪を指先でどかしながら茉莉花がいたずらな笑みを浮かべる。

その笑みに見とれていると、「つぎはZ駅ー、Z駅ですー。お出口は右側です」と車内アナウンスが耳朶(じだ)を打った。

「きょう時間ある?マクド行ってプリクラ撮ろ」

Z駅に電車が止まってからたっぷり10秒、雪ノ瀬さんがぼそっと口を開いた。

「今日は塾ないから大丈夫。マクドとプリクラ行こ」

扉が閉まり、間もなく電車が発車する。

雪ノ瀬さんは何事もなかったかのように車窓に流れる景色を見ていたけど、私はどくどくと高鳴る鼓動を鎮めるのに精いっぱいだった。