「絆ー、いっしょにやろー!」
握力トレーニングを終えて、ボールのカゴからボールを取り出してその場でドリブルしていると、派手めなグループに所属している石川さんという女子がこちらに手を振っていた。
一瞬、胸をちくりと突き刺した劣等感に蓋をして閉じ込め、「いいよいいよー」と石川さんに二つ返事で承諾する。
「あ、雪ノ瀬さんも一緒でいい?」
後ろで亡霊のように突っ立っていた雪ノ瀬さんにちらりと視線をやりながらそう質問する。
「あ、いいよいいよー。一緒にやろ」
ボールちょうだい、と一軍女子特有のあの強引さでボールをもらった石川さんが「おーい早川、やろーぜー」と男子にちゃっかり対戦を申し込んだ。
少し耳打ちをしてから、ちゃらちゃらした見た目の男子たちが「石川がそう言うならいいわー」と渋々と言わんばかりに私たちがいるコートにやってきた。
その男子たちの1人が、私の横を通る時に「雪ノ瀬とやるとか無理なんだけど」と小さく言った。
――いや、私に言われても困るんですけど。
雪ノ瀬さんはそれに気づいていないようで、何も知らないで長い黒髪に手櫛を通していた。
ぎゃはは、と談笑しながらそれぞれの位置についていく男子をぼーっと眺めていると、「絆、パス!」という石川さんの声とともに、オレンジ色のバスケットボールが飛んできた。
――やっぱり無理だ、絆って言われるのは。そんな話したことないし、せめて井原って、名字で呼んでよ…
何とかキャッチしたボールをゴールリングに投げると、私が投げたボールがアクリルボードに直撃して、コート外にボールがころころと転がっていった。
「もっかい外から!」
男子がボールをドリブルするのをぼーっと眺めていると、私のトラウマとしか言いようのないあの記憶がゆっくりとリフレインしてきた。



