【今度の土曜、空いてたら一緒にM駅のショッピングモールで遊ぼ!】
放課後、茉莉花と一緒に静かな図書室で勉強していると、彼女から3つ折りのルーズリーフの切れ端が届いた。
右耳にだけつけていたワイヤレスイヤホンをそっと外してブレザーの胸ポケットにしまい、顔を上げると茉莉花がいたずらな顔で微笑んだ。
私は机に広げていた教材類を左にどかして、3つ折りのルーズリーフに【いいよ】と書いてみた。
しかし態度が尊大すぎるような気がする。消しゴムでその3文字をガシガシとこすって手を止めると、音楽が脳内に大きく流れ込んできた。
【嗚呼、「寒いね」って言葉を発して 君に近づく口実にしたくて この寒さも悪くはないね】
私はその歌詞に身を委ね、瞳を閉じた。
脳内で【一緒に遊びたい】【うん、行けるよ】【茉莉花とならどこでもいつでも】の3つの単語がぐるぐると回る。
数秒の試案で、私が編み出したのは【うん、空いてるよ。楽しみ!】だった。
その文言をルーズリーフに勢いよく書き、折り目に合わせて折って元通りにしてルーズリーフを茉莉花に返した。
彼女が手を伸ばしたので、そこにルーズリーフを差し出す。
軽い既視感とともに、茉莉花の掌が私の指先にわずかに触れた。
触れたところが、燃えるようにかっと熱くなる。
私の頬と、耳の先もわずかに燃えているのがわかる。
【顔が赤いのはきっと寒さのせいだ】
脳内に、先ほど聞いていた曲の歌詞がリフレインする。
その言い訳は通用しないくらいには、図書室はガンガンに暖房が効いている。
顔が赤いのは絶対、茉莉花のせいだ。
わずかな怒りを込めて茉莉花を上目遣いで見上げると、彼女は真剣な表情で数学の問題集を解いていた。



