電車が減速して、ゆっくりと停車した。

後ろから押されるような感覚とともに電車を降りて、改札まで向かう。

ICOCAで改札を抜けて、ワッフル屋が放つ甘い匂いに背を向けてすたすたと地上に降りていく。

外はまだ雪が降っている。ココアのぬくもりが少しずつ奪われていくのがわかる。

バス乗り場で立ち止まり、ふわふわと舞う雪を眺める。

無意識のうちにカメラアプリを立ち上げて、白いフィルターがかかったような景色を撮影して茉莉花のLINEに転送した。

祈るようにスマホを握りしめ、トーク画面を凝視していると『既読』の2文字がついた。

【めっちゃ真っ白だね 私のところも雪降ってる】

その簡潔なメッセージとともに、送られてきたのは真っ白な雪景色の写真だ。

【いよいよ冬って感じ。まあもう冬本番か(笑)】

ちょっと茶化したような茉莉花のメッセージに口角を緩めると、バス乗り場にバスがやってきた。

ローファーでしっかりとステップを踏みしめ、整理券を取って5人掛けのシートに腰かける。

車内は暖房がガンガンに効いていて、体がでろりと溶けてしまいそうだ。

制服の紺色のリボンのしわを丁寧に伸ばしてから、ブレザーの胸ポケットに入っていたプリクラを取り出す。

2分割で、『Best Friend!』と書いたやつと、茉莉花の筆記体で『Kizuna』と『Marika』と書かれたやつを選んだ。

プリクラを指でつまんだまま、バス会社の採用の中吊り広告を眺めていると、『次は○○~、○○です。お降りの方はボタンをお押しください』と車内アナウンスが聞こえた。

私はオレンジ色の柱に取り付けられていた降車ボタンを人差し指で押して財布を取り出した。

バスが止まるまでの短い時間、無意識に手に持っているプリクラに目を落とす。

「『Best Friend』か…」

私と茉莉花の関係は、果たして『Best Friend』なんだろうか。茉莉花にとってはただ自分のクラスと学級委員長と遊んだくらいじゃないのだろうか?

ぐるぐる考えれば考えるほどわからなくなってきたので、私は諦めてプリクラをスカートのポケットにしまった。