彩夏は再び資料に目を落とし、次の課題へと気持ちを切り替えた。

その日の午後、新郎新婦との打ち合わせは、会場の装花やテーブルセットの具体的な相談へと進んだ。

「会場の雰囲気は、どんなイメージをお持ちですか?」

彩夏が問いかけると、優花は少し考えてから答えた。

「温かみのある雰囲気がいいです。白と淡いピンクを基調にして、花で柔らかさを出したいです」

楓介も頷きながら言葉を添える。

「派手すぎない方がいいですね。ゲストが落ち着いて過ごせるようにしたいです」

優花がそう答えた後、少し恥ずかしそうに付け加えた。

「あの…ピンクのガーベラを入れてほしいんです」

優花が少し恥ずかしそうに口にすると、彩夏はすぐに微笑んだ。

「もちろんです。ピンクのガーベラですね。とても可憐で、会場を明るくしてくれますよ」

優花は小さく頷き、言葉を続けた。

「彼がプロポーズの時にくれた花なんです。それに…彼のお母さんが好きな花でもあって」

楓介が驚いたように彼女を見つめ、少し照れくさそうに笑った。

「覚えててくれたんだ」

その瞬間、二人の頬が同時に赤らみ、視線が自然に重なる。

優花は恥ずかしそうに目を伏せ、楓介は彼女の手をそっと握り返す。

言葉にしなくても、互いの想いが伝わっているのが分かる。

彩夏はその光景を見つめながら、胸の奥で静かに思った。

――なんて素敵なんだろう。

ただの花じゃない。

二人の愛と家族の絆が込められた、大切な意味を持つ花なんだ。

「承知しました。
では、メインテーブルやブーケにもピンクのガーベラを取り入れましょう。お二人の想いを形にできるように工夫しますね」

二人は顔を赤らめたまま、同時に「お願いします」と声を重ねた。

その響きに、会場の空気が一層温かくなるのを彩夏は感じていた。