……正月三が日の明けた翌日、朝十時。
神社の鳥居前に、小振袖姿の女子高生四人がそろうと。
わずかながらもお参りに訪れた人々がみな、目を奪われている。
「こら。『わずか』は余分」
頑張って大振袖で着飾って、見栄を張っている高尾先生が。
僕のコートのフードを引っ張ると。
「『見栄を張る』も余分だから」
もうひとり、藤峰先生が加勢したので。
僕の首がどんどん絞められていく。
「み、未婚ですから……おふたりとも、まだお似合いです」
「ちょっとっ!」
「『それ』が一番、余分だからっ!」
ふたりが僕に、とどめを刺そうとして。
慌ててコートを脱いで僕は逃げ出した。
「あの三人……なにしてるの?」
「いい年して、鬼ごっこしてますよ」
「よくあの格好で走る・よ・ね・ー」
「やっぱり今年も、平穏にはいかなさそうよね……」
無事に神社での『お勤め』を終え。
玲香ちゃんに、高嶺。それに波野先輩と三藤先輩が。
なかばあきれながら、のんびりと僕たちの姿を眺めている。
そういえば、女性陣の衣装は。
すべて高尾先生のお母さんが用意してくれたものだ。
「……せっかくですから、みなさんでいかがですか?」
昨日の午後、そのあたりはさすが神社というべきか。
「色々と、在庫がありましてねぇ……」
華やかなものから上品な絵柄まで。
社務所の中に、たくさんの着物が並べられると。
「かわいいっ!」
「わたし、これが絶対似・合・う!」
高嶺と波野先輩が、手にとってまず大喜びする。
ふたりを横目に、玲香ちゃんは。
「萌黄色か白緑色、昴君どう思う?」
黄緑系の生地に、桜の花が描かれたふたつを手に僕に聞く。
「……着るんだね」
「それは当たり前」
そう答えたあと、玲香ちゃんは僕をチラリと見ると。
「月子だって……『月下美人』の前でとまってるよ」
そう伝えてから、僕に向かって。
「それで、どっちが似合うか教えてくれない?」
ニコリと笑って、再度聞いてくる。
「ありがと、じゃぁそっちにする」
玲香ちゃんなら、こっちかと。
何度か合わせてくれたあとに、僕が告げると。
「海原君も、おひとついかが?」
「えっ……」
ニコニコと、一面の梅の柄が施された小紋の振袖を手に。
先生のお母さんがすりすりと近づいてくる。
「いえ……さすがにそれは……」
「あら、もったいないことですね」
高嶺に気づかれる前に、辞退できてよかったと思っていたら。
「もう少し『男らしい』のがよければ、ワシのを貸してやるぞ」
いつのまにかきていた宮司、要するに先生のお父さんがいうけれど。
あの……それを僕に、初詣に着ろとおっしゃるので?
「あら、おしゃれですわねぇ〜」
「じゃろう、極上品じゃ」
盛り上がるふたりを、複雑な顔で眺めるしかない。
やはり高尾家の会話は。
今年もまったくもって、理解できそうにない。
……そもそも『白装束』に、おしゃれとかあるんですか?
とまぁ、そんなこんなで『豪華』な女子がそろった今朝に戻ると……。
「はい、アンタちゃんと撮んなよ!」
高嶺のものが真っ先にきて、それから次々に。
各人のスマホが僕にやってくる。
あぁ、いつもの撮影会がはじまった……。
「え! もしかして海原君。デジカメ持ってき・た・の?」
ようやく撮影会が終わったと思ったら。
波野先輩が目ざとく、僕の所持品を発見する。
「あ……それは……」
「昴君にしては、珍しいね」
玲香ちゃんはそういうと。
「せっかくだから、撮ってくれる?」
ニコリと、僕に命令する。
「それなら……しかたないわね」
三藤先輩が、珍しく撮影許可を出すと。
「じゃぁ『ゴマちゃん』が中央ね!」
高尾先生が、自らが命名した自慢の『狛犬』をセンターにしろと指定する。
ま、まぁ。これで断ったら怒られるだろうし。
……それに『本命』を撮るには……まだ容量は足りている。
「じゃぁ、何枚かいきますよ」
そういって僕は、再度カメラマン役をうけたまわると。
みんなでようやく、参道を歩きはじめる。
途中の小さなお社の前では、全員で背筋を伸ばして一礼し。
それから、本殿へ。
「よし。売上に貢献するよっ!」
藤峰先生が、妙にリアルなことをいいながら。
高嶺と一緒になって、ジャラジャラとおみくじの箱を振り出して。
「大吉が出るまで、ずっとやり続けそうよね……」
思わず三藤先輩がつぶやくと。
「あの子高校のとき、うちのみくじ棒全部出し切ったのよ」
「えっ……」
高尾先生が、ついポロリと。
藤峰先生の恥ずかしい過去を口にする。
「お父さんがね、一本だけ『大大吉』があるって冗談いったのよ」
まさか、本気にして全部抜いてしまうとは思わず。
「そのあと、おみくじ箋を全部開いて探してね……」
「恐ろしい、状況ですね……」
「『夏休み』の自由研究の題材にして、賞を取ってしまったわ」
「年始のネタを、わざわざ夏休みにまとめたのね……」
「三藤先輩、それより高校なのに自由研究の宿題があるほうが……」
「きっとそのときの写真とか、あった気がするけれど?」
「いえ高尾先生……まさに目の前で見ているところです」
『大凶』をひいた高嶺に、『大吉』だと勝利宣言している藤峰先生のその顔は。
きっと……何十年前のそれと同じなのだろう。
「ちょっと! そんなに年齢離れてないんだけど!」
この距離で、聞こえていたのか。
藤峰先生が僕に向かって、年齢について触れるなと威嚇してくる。
続いて、今度は。
「あれ?」
突然不思議そうな声をあげて。
その視線の先を追った僕は、思わず……。
……海原君が、いきなり。
「栗木若葉先輩?」
わたしの名前を呼ぶもんだから。
「えっ、知ってたの!」
大声で、叫んでしまった。
「そりゃぁ……知ってますけど?」
「だっていままで作中でずっと、『女子バレーボール部の部長』扱いだったのに?」
「あ……あの、それは……」
海原君が、隣で腕組みしている。
不機嫌そうな月子を恐る恐る盗み見る。
「あぁ〜。要するに、ほかの女子の名前を呼ばせたくないないのがいるんだぁ〜」
「ちょっと、若葉!」
「おっ、わたしの名前をいきなり呼び捨てかぁ〜」
「あぁ……もう! この作品、どうしてこう女子高生ばかりが増えるのよ……」
そんなの、作者の都合だろうに。
以前と違って、ある意味で正直というか。
色々と『声に出す』ようになった月子が。
「海原くん! 若葉はそのまま『バレー部長』呼びでよかったとか、思わないの?」
遠慮なく話すことのできる唯一の『男子』に向かって、必死に抗議している。
月子の慌てぶりが面白くなったわたしは。
「ねぇ海原君!」
その男子にこっちを向いてと呼びかけると。
「隣にいるわたしの『連れ』だけど、もちろん知ってるよね?」
さっきから、必死にわたしの影に隠れようとしている。
わたしの大切な後輩のフルネームを呼んでくれと。
「いってみてよ、お願い!」
頼むから外してくれるなと、少しだけドキドキしながら。
海原君に、問いかけた。

