「陽子どうして? あと少しだったのに?」
せっかくの、『全員一致』の機会を失った。
わたしは、そう思ったのに。
「これでいいんだよ、若葉」
陽子はとても、落ち着いていた。
……だけどわたしは、陽子のいっている意味がわからない。
ただ気がつくと、校長がステージに移動してきていて。
「みなさんの『声』は、よく届きました」
なにか話しをはじめたので。
「なんだ陽子、驚かせないでよ」
寺上先生の話しを聞くために、座らせたのだとわかって。
だったらそういってくれたらいいのに。
これで生徒会が成立なら、意外と楽勝だったねと。
そんなことを、思いはじめたのだけれど……。
「栗木さん、各部長や有志のみなさん。そしてこの場にいるすべてのみなさん」
ところが、わたしだけが名指しされて。
思わずゴクリと、ツバを飲み込む。
「ご立派でしたね。みなさんはすばらしいわ」
でも、なんだ。ほめられた。
やったんだね! わたしたち。
「……それで、このあとはどうするのかしら?」
えっ……?
そんなの……あとは海原君と。
放送部のみんなに、まかせたらいいんだよね?
校長からの問いかけに。
講堂内が、ザワザワとしはじめる。
どうして?
みんなだって……そのつもりだよね?
そ、そうか。
わたしたちは。
……彼や放送部のメンバーの『気持ち』を、聞いていなかった。
サプライズだけれど、当然受けてくれるだろうなんて。
そんなの……身勝手で浅はかだ。
放送部のみんなは前回のことで。
悲しい思いを、してきたのに……。
「ねぇ。どうしよう……」
わたしは耐えられずに、思わず陽子に聞いてしまう。
もし、もし彼らに『断られた』ら。
それこそ二度と。『丘の上』に生徒会は、設立できなくなってしまう……。
先ほど、陽子から思わず奪ったマイクを持つ手が。
現実を知って、震えだす。
ひょっとすると、わたしたちは。
……とんでもない間違いを、犯してしまったのだろうか?
「若葉、平気だよ」
すると、そんな声が聞こえてきて。
わたしの震える手を、陽子がやさしく包み込む。
それから陽子は。
「これでいいんだよ、若葉」
さっきと同じ言葉を、もう一度繰り返してから。
……笑顔でわたしを、見てくれた。
……わたしは、バレー部が大好きになっている。
若葉や、ほかのみんなと一気に仲良くなった。
それはね、変わらない事実だよ。
あと。大好きだった放送部を、きちんと『卒業』したのも本当。
でもね、だからってあの子たちと過ごした日々は。
……『卒業』したって、終われない。
あのね、実はわたし……。
「生徒会を……立ち上げる?」
「そう、放送部にやってもらおうよ!」
「いまならいける! 絶対喜ぶと思う。ほかの部長たちもやる気でいっぱい!」
最初にそうやって、若葉が教えてくれたとき。
うれしくて驚くよりもむしろ。
……勝手に決めるなと、腹が立ってしまったの。
この学校は、確かに変化してきている。
いくつかの苦い教訓も加わって、『まとまり』も出きてきたし。
きっと今回の試みは、成功すると思ったよ。
ただ、だからこそ放送部のみんなのことを……わたしは考えた。
……きっと寺上先生はわたしの心を、一瞬で見抜いたのだろう。
「放送部のみんなが傷つくのは、もう絶対に嫌なんです……」
校長は、ずっと。
わたしの気持ちを聞いてくれた。
寄り添い続けてくれた。
「……勢いで押し切るのは、どうでしょうね?」
校長室ばかりではなんだからと、カエデの木の下にいってから。
先生は、いまは亡き娘で。
『放送部』にとって大切な『寺上かえで先輩』に問いかけるように。
一度だけそういった。
「あと少し! もう少しで『みんな』が立ち上がる!」
たくさんの生徒が、そうやって願っていたときに。
放送部のみんな。
もっというなら、海原昴と三藤月子。
あのふたりは絶対。
……『立ち上がらない子たち』のことを、考えていたはずだ。
あのふたりに、引き受けてもらうために。
全校生徒ひとり残らず賛成しようという気持ちは理解できる。
ただね、その考えかたは。
……あのふたりを『また』、傷つけるんだよ。
「ありがとうございます、一旦全員着席してください」
そういったわたしの言葉が、発端となって。
もしまた生徒会が、ダメになってしまったら。
若葉やほかの部長たちに、恨まれるかもしれない。
明日卒業を迎える三年生たちに、嫌われるかもしれない。
学校中から、わたしのせいだと責められるかもしれない。
……でも、わたしは迷わない。
大好きな放送部のみんなと。
あのふたりを守るためなら。
たとえひとりきりでも絶対に。
……ここで、守ってみせるんだ。
「……そろそろ、出番だね」
「えっ、佳織?」
「このあとはどうするのかしら?」
だって、つぼみちゃんのあのセリフ。
……別に生徒たちに向けた『だけ』とは、限らないじゃない。
「あぁ、『そういうこと』ね」
響子はすぐに、わたしの意図を理解して。
「じゃ、遠慮なく!」
そういって笑顔で立ち上がると。
わたしたちは、力一杯。
生徒たちに向かって、拍手をはじめる。
「これは……」
「ふ、藤峰先生?」
古文のおじいちゃんと、物理のベテラン教師だけではなくて。
講堂中の視線が響子とわたしに釘付けになって、それから。
「スタンディング・オベーションですよ!」
「おおっ、それだっ!」
野球部とサッカー部の顧問が参加して。
「ブラボ〜!」
元・オペラ歌手って噂、冗談じゃなかったんだ。
音楽の先生が、さすがの貫禄で。
「ブラボ〜!」
教員親睦会でなぜか演歌を絶唱したとき以上に、はじけだす。
「どうなるかな、佳織?」
「さぁ? 『丘の上』の教師なら、きっと気づくでしょ」
きょう、この場所で。
わたしたち教師の振る舞いに、欠けていたものがひとつある。
これだけ生徒たちが、頑張っているのに。
……ただ見ているだけって、どうなのよ?
「よし、『やってみろっ』!」
どこかの先生が、待望のひとことを発してくれて。
「やってみろ!」
「応援するぞっ!」
色々な声が、増えてきて。
ステージの中央では、つぼみちゃんが。
生徒たちに向かって、『よくやった』と。
力強く何度も、声に出して伝えてくれた。
……春香先輩は放送部外で最大の、僕たちの理解者だ。
もし、あのまま全校生徒を立ち上がらせていたら。
僕はきっと、逃げ出していた気がする。
いや、そうじゃなくて……。
僕の右隣の先輩がステージから。
全校生徒に向かって、喧嘩を売っていたかもしれない。
「……なにかしら、海原くん?」
いえ、三藤先輩……なんでもありません。
「それはいいから。昴君、あと月子もさ」
玲香ちゃんが、僕たちを見ると。
「……このあと、どうする?」
最大の難問を突きつけてくる。
……いったいどうやって、この場を収めればいいのだろう?
こんな盛り上がりを経験したことのない僕としては……。
どう対処したらいいのか、正直わからない。
ただ、そのとき。
僕たちの目の前を。
なんだか『小さいもの』が駆け抜けて。
三人が、顔を見合わせたその瞬間。
ステージ上で、とびきり大きな『悲鳴』が。
……すべての動きをとめるように、響き渡った。

