娘のソフィアは気位が高い。愛想も愛嬌もない。
これは次期女侯爵としての対外的な姿である。
決して傲慢ではなく身分関係なく周囲への気遣いも出来るので家中の者みんなから慕われている。
本来は明るい気質で、親しいものには花が綻ぶような笑顔でくるくる表情を変えておしゃべりする。
まさに掌中の珠だ。
その娘に婿を取ることになった。
第3王子のセドリック殿下だ。優秀な彼は宰相補佐として、宰相を務める私の下で着実に育っている。
その殿下がソフィアに一目ぼれをした。その場にいた誰の目にも明らかなほど骨抜きになった。
殿下は毎日休憩時間に側近たちとソフィアの話で盛り上がっている。
対外的な対応を崩さない娘はかなり近寄りがたいはずなのだが、それでもなおそこまで惚れているのなら大切にしてもらえるのではと思い、陛下に婿入りを打診したのだが、それを傍で聞いていた殿下は私が言い終わる前に「お受けします!義父上!」と叫んだ。まだ早い!
陛下と私は従兄の間柄で、幼い頃に隣国から嫁いできた王妃と私の妻の四人は幼馴染みだ。
両陛下の意向で、ソフィアは生まれた時から王太子妃の最有力候補として教育してきたが、妻が病で子供が望めなくなったために候補から外され、次期女侯爵として領地で教育しながら育てた。
妻の亡き後も公の場には出さず、王都から遠い領地の田舎娘と吹聴していた事が功を奏し、侯爵家への婿入り希望はそこそこで、篩にかけるのは簡単だった。デビュタントで本人が姿を見せてからは星が降るほどの申し込みがあったが全て片っ端から蹴ってやった。
「王都から遠い田舎の領地で田舎娘と一生過ごすのはお辛いでしょう」と。
そして迎えた今日、セドリック殿下とソフィアの婚約と婿養子縁組の書面を交わして正式に婚約者として発表することとなったのだが・・・
執務室で書類の確認と保護者のサインの後、晴れやかな気分で両陛下と共に談笑していると執事長がやってきて、ソフィアが急な心痛で体調を崩したと伝えられた。
家中の人間にしかわからないが、執事長はとてつもなく怒っている。
どういうことか事情を聞くと、どうやらいつもの3人の軽口をソフィアが聞いてしまったらしい。それも最初だけ、最悪な切り取り方で。
私と両陛下は頭を抱えた。
普段彼らに接しない家中の者は当然軽口に続くソフィア礼賛を知らないため、婿のくせにお嬢様を侮辱した不届き者、たとえ王族であっても赦すまじと怒り心頭らしい。
何をやっているのだ、セドリック殿下。
娘を傷つけたことに怒りはあるが、ソフィアへの気持ちと婿に決まった時のあの喜び様、それからの浮かれ具合を知っているだけに複雑だ。
堅物で素直になれないあの娘の誤解を解いて気持ちを取り戻すのは至難の業だぞ。
最愛の妻譲りの、ソフィア本来の花のように美しい笑顔を向けられる記念すべき日は当分お預けだ。
これは次期女侯爵としての対外的な姿である。
決して傲慢ではなく身分関係なく周囲への気遣いも出来るので家中の者みんなから慕われている。
本来は明るい気質で、親しいものには花が綻ぶような笑顔でくるくる表情を変えておしゃべりする。
まさに掌中の珠だ。
その娘に婿を取ることになった。
第3王子のセドリック殿下だ。優秀な彼は宰相補佐として、宰相を務める私の下で着実に育っている。
その殿下がソフィアに一目ぼれをした。その場にいた誰の目にも明らかなほど骨抜きになった。
殿下は毎日休憩時間に側近たちとソフィアの話で盛り上がっている。
対外的な対応を崩さない娘はかなり近寄りがたいはずなのだが、それでもなおそこまで惚れているのなら大切にしてもらえるのではと思い、陛下に婿入りを打診したのだが、それを傍で聞いていた殿下は私が言い終わる前に「お受けします!義父上!」と叫んだ。まだ早い!
陛下と私は従兄の間柄で、幼い頃に隣国から嫁いできた王妃と私の妻の四人は幼馴染みだ。
両陛下の意向で、ソフィアは生まれた時から王太子妃の最有力候補として教育してきたが、妻が病で子供が望めなくなったために候補から外され、次期女侯爵として領地で教育しながら育てた。
妻の亡き後も公の場には出さず、王都から遠い領地の田舎娘と吹聴していた事が功を奏し、侯爵家への婿入り希望はそこそこで、篩にかけるのは簡単だった。デビュタントで本人が姿を見せてからは星が降るほどの申し込みがあったが全て片っ端から蹴ってやった。
「王都から遠い田舎の領地で田舎娘と一生過ごすのはお辛いでしょう」と。
そして迎えた今日、セドリック殿下とソフィアの婚約と婿養子縁組の書面を交わして正式に婚約者として発表することとなったのだが・・・
執務室で書類の確認と保護者のサインの後、晴れやかな気分で両陛下と共に談笑していると執事長がやってきて、ソフィアが急な心痛で体調を崩したと伝えられた。
家中の人間にしかわからないが、執事長はとてつもなく怒っている。
どういうことか事情を聞くと、どうやらいつもの3人の軽口をソフィアが聞いてしまったらしい。それも最初だけ、最悪な切り取り方で。
私と両陛下は頭を抱えた。
普段彼らに接しない家中の者は当然軽口に続くソフィア礼賛を知らないため、婿のくせにお嬢様を侮辱した不届き者、たとえ王族であっても赦すまじと怒り心頭らしい。
何をやっているのだ、セドリック殿下。
娘を傷つけたことに怒りはあるが、ソフィアへの気持ちと婿に決まった時のあの喜び様、それからの浮かれ具合を知っているだけに複雑だ。
堅物で素直になれないあの娘の誤解を解いて気持ちを取り戻すのは至難の業だぞ。
最愛の妻譲りの、ソフィア本来の花のように美しい笑顔を向けられる記念すべき日は当分お預けだ。



