《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

 音楽室のドアが閉まると、外のざわめきがすうっと遠のいた。
 夕方の光がピアノの表面に反射して、きらきらと揺れている。
 静かな空気の中で、ふたりだけの時間が始まった。

「練習、ここならバレないと思ってさ。音楽部の子に頼んで鍵、借りといた」

 どこか得意げに言う麻里奈に、大和は小さく笑う。

「……抜け目ないな」

 部屋の中央には電子ピアノ。
 隣にはギターと譜面、飲みかけのペットボトル――
 まるで“ふたりの秘密基地”のようだった。

「じゃ、歌ってみる? とりあえずサビだけ」

 麻里奈が譜面をめくったところで、大和が静かに言う。

「先に歌って」

「え、私から? なんか緊張するんだけど……」

 照れながらマイクを持ち、深呼吸。
 スイッチを入れると、小さなノイズが走った。
 そして――麻里奈はサビのフレーズをそっと歌い始めた。

 優しい声。少しかすれた語尾。
 思っていたより、ずっと、心を揺らす歌声だった。

 歌い終わったあと、しばらく静寂が落ちる。
 大和がぽつりとつぶやいた。

「……歌うとき、顔少し上向くんだな」

「えっ、見てた?」

「まぁ。……思ったより、良かった」

「“思ったより”って何それ。素直に褒めなさいよ」

 ふくれながらも笑う麻里奈。
 その笑顔に、大和はわずかに視線をそらした。

「じゃ、次は大和くんの番ね」

「……仕方ないな」

 ギターを構えた大和が、静かに弦を弾く。
 シンプルなコードが響き、低めの声が音に乗った。

 少し不器用で、でもまっすぐで――
 その声には、言葉より強い“気持ち”が宿っていた。

 麻里奈は、気づけば見とれていた。
 目を閉じて歌う横顔が、どこか遠くにいるようで、
 でも確かに、すぐ隣にいた。

 歌い終わったあと、大和がこちらを見て言う。

「……どうだった?」

「……ずるい」

「は?」

「かっこよすぎて。ずるい」

 からかうように言うと、大和は耳まで赤くし、そっぽを向いた。

 ――このユニット、もしかしたら、すごくいいかもしれない。

 麻里奈は、心の中でそっとつぶやいた。
 音の距離が、少しずつ心の距離を縮めていくように。