運命の恋は、雨のバス停から

「やめてよ、本当に大変だったんだから」

昨日の光景がよみがえる。

空を裂くような雷鳴、斜めに吹き付ける雨粒、身体を濡らす雨の冷たさ――思い出すだけでも嫌な気持ちになる。
ふと、バス停で出会った男性の姿が頭に浮かんだ。
濡れた髪をかき上げる仕草や、困ったように笑う顔を思い出して、少し胸がざわついた。

「そういえばさ、バス停で私と同じようにびしょ濡れになったサラリーマンがいたんだよね」
「え、急になに?その人がどうかしたの?」

直美は目を丸くし、首を傾げて私を見る。

「傘を持ってなかったから貸してあげたの。鞄に書類とかタブレットが入っているって言うから、濡れたらと困るかなと思って」
「いや、みのりも傘がないと困るでしょ。家の最寄りのバス停からは徒歩なんだから」

直美は呆れたように言う。

「まあそうなんだけど、その人はバスを使うわけじゃなくて雨宿りでバス停に寄っただけなの。私はバスに乗って帰るだけだったから、傘を貸してあげてもいいかなって。それに、すでにびしょ濡れだったし変わらないでしょ」
「バカねぇ。まあ、それがみのりのいいところなんだけど。で、そのサラリーマンは若い男?カッコよかった?」

サンドウィッチを食べながら興味津々に直美に尋ねられ、思わず箸を止めた。

長身で目も切れ長で整った顔をしていたし、髪の毛をかき上げる仕草が妙に色っぽかった。
だから、かっこいいかと聞かれたら、たぶんそうなんだろう。