「もしかして、気心を許した人には″俺”ってことですか?」
「あー、そうかもしれない」
彼の答えを聞いた瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられた。
私の前ではまだ"僕"だから、外用なんだと思うと、雨宮さんとの距離を感じて切なくなった。
デザートを食べ終えた頃、雨宮さんがそっと私の名前を呼んだ。
「椎名さん」
「はい」
顔を上げると、彼は真剣な眼差しで私を見つめていた。
いつもの柔らかさとは違い、強い決意が感じられる瞳で見つめられ、心臓が早鐘を打つ。
「豪雨の日、あのバス停で出会ってから……ずっと、君のことばかり考えていた」
その言葉を聞いた瞬間、思わず息をのんだ。
「取引先を出て歩いていたら、突然の豪雨に襲われて急いで駆け込んだバス停に椎名さんがいた。普通、見ず知らずの男に自分の傘を渡したりしないだろ?それなのに、君は自分が濡れるのを気にすることなく傘を差し出してくれた」
雨宮さんは当時のことを思い出しながら話す。
「たった数分の出来事で、お互いに名前も知らないから、二度と会えることはないだろうと思っていた。だけど、椎名さんの職場で再会できて本当に驚いたんだ。こんな偶然があるのかと」
その言葉に心臓が跳ねた。
彼も私と同じような気持ちだったのかと思うと、胸が熱くなる。



