突然の雨にうんざりしながらタオルで頭を拭いていたら、私と同じようにびしょ濡れになった一人の男性がバス停に駆け込んできた。

濡れた前髪の隙間からのぞく切れ長の瞳が、静かにこちらを捉える。
視線が重なった瞬間、お互いに軽く会釈した。
私より少し年上に見えるその男性は、濡れた髪の毛をかき上げながら肩を竦め、苦笑いする。

「すごい雨ですね」
「本当ですよね。急に降り出したから、傘を広げる間もなかったです」

私も小さく笑いながら答える。
初対面でも同じ"びしょ濡れ"という状況に置かれているからか、不思議と親近感が芽生えていた。

バス停の屋根に当たる雨音はさらに激しさを増し、この調子ではしばらくやみそうにないだろう。
なんとなく彼に目をやると、ぼんやりと遠くを見つめて何かを考えているように見える。
気になって、つい声をかけてみた。

「バス、もうすぐ着そうですよね」
「あ、バスを待っているわけではなく、雨宿りに寄っただけです」

男性はスーツ姿でビジネスバッグを抱えているところを見ると、きっと仕事帰りなんだろう。

「じゃあ、バスは利用しないんですね」
「はい。小雨になったら帰ろうかなと思って。鞄の中に書類とかタブレットが入っているので、濡らすわけにはいかなくて」

男性は空を見上げながら言った。

私はもうすぐやってくるバスに乗ればいいだけ。
でも、彼は豪雨の中で小雨になるまでここで待つつもりらしい。
雨は一向に弱まる気配がなく、いつやむのか見当もつかない。

そんな時、ふとバッグの中の折りたたみ傘の存在を思い出した。