一週間後、取引先の『ジョイントイ』を訪れた時、受付に座る彼女を見て心臓が跳ねた。

営業として場慣れしているはずなのに、あの時ばかりは緊張を隠せなかった。
打ち合わせを終え、入館証を返した時に思い切って、彼女に声をかけた。
プライベートの連絡先を書いた名刺を渡し、傘を返したいと言ってなんとか会う約束を取りつけることができた。
この時の自分の行動力には驚くばかりだ。

後日、カフェで会った時、彼女との会話から特定の相手がいないのかなと思った。
気づけば、メッセージのやり取りが自然と増えていき、いつの間にか彼女は特別な存在になっていた。

どうして椎名さんに惹かれたのか、自分でもうまく言葉にはできない。
数回しか会っていないけど、彼女は無理に飾らず自然体でいてくれて、その空気感が心地よかった。
彼女の笑顔を見るだけで、営業の駆け引きで疲れた心が不思議なほど穏やかになる。
過去の恋愛では得られなかった安心感が、彼女といると感じられた。

もし、あの日雨が降っていなかったら――。
そう思うたび、偶然という名の運命に感謝せずにはいられなかった。
彼女との出会いはただの偶然ではなく、俺の人生を変えた必然だったのかもしれない。

次に会った時、気持ちを伝えたいけど、断られたらという不安もある。
だけど、一歩踏み出さなければなにも始まらない。
ダメもとでも、自分の想いを伝えようと決意し、アクセルを踏み込んだ。