運命の恋は、雨のバス停から

バス停には先客がいた。
自分と同じようにびしょ濡れになった女性――それが椎名みのりだった。

彼女は眉をわずかに寄せながら、タオルで髪の毛を拭いている。
同じような境遇というだけで妙な親近感があり、気づけば「すごい雨ですね」と声をかけていた。
すると、彼女は「本当ですよね。急に降り出したから、傘を広げる間もなかったです」と言って困ったように笑った。

その後、なんとなく会話を続けていたら、椎名さんは自分の折りたたみ傘を差し出してきた。
どうして初対面の男に、こんなに親切にしてくれるんだろう。
それに、傘を借りたところで返せる保証もないのに、と躊躇していたら彼女は柔らかく微笑んで言った。

「傘、使ってください。これも何かの縁だと思いますし」

押し付けるように渡された傘。
そして彼女はやってきた来たバスに乗り、あっさりと去ってしまった。

ほんの数分の出来事だったのに、その時の彼女の姿はやけに強く心に刻まれた。
濡れた髪をタオルで拭く仕草、ふっと微笑む表情に視線を奪われていた。
自分のことより他人を気遣える優しさに、胸の奥が温かくなった。

だが、彼女とはもう二度と会うことはないだろう。
そう思っただけで、なぜか胸が軋んだ。