〈環side〉
映画を観終え、ショッピングモールを出た瞬間、外の空気は思った以上に冷たかった。
思わず肩を竦めながら駐車場まで歩き、車に乗り込むと大きく息を吐く。
――彼女とこんなところで会うなんて。
ふと、気晴らしに一人で映画を観に来ていた。
まさか、ショッピングモールで同期と買い物に来ていた椎名さんと偶然鉢合わせするとは思わなかった。
高塚商事で営業をしていて、日々、取引先を回って交渉したり、時には頭を下げたりする。
たまに、無茶ぶりされても笑顔でそれを受け止める。
そんな慌ただしい毎日の中で、椎名さんと偶然何度も出会ってしまう不思議な縁に、胸がざわつくのを抑えられなかった。
エンジンをかけて車を走らせながら、自然と彼女と最初に出会った時のことを思い返していた。
あの日は、取引先での打ち合わせを終えて歩道を歩いていたら、急な豪雨に襲われた。
スーツも髪の毛もあっという間にびしょ濡れ。
ビジネスバッグには書類やタブレットが入っていたので、濡らすわけにはいかない。
それを胸に抱えて走っていたところで、屋根のあるバス停が目に入ったので駆け込んだ。
冷静になって考えれば、あの場でタクシーを呼べばよかったんだ。
だけど、あの時はそんな余裕などなく、とにかく雨を避けることしか頭になかった。



