『……はい、雨宮です』
低く落ち着いたバリトンボイスが耳に届いた瞬間、身体を震わせた。
小さく息を吐いて口を開く。
「こ、こんばんは。『ジョイントイ』の受付にいた椎名です」
自分の声が緊張で震えているのが分かる。
一瞬の沈黙のあと、雨宮さんがフッと笑ったような気がした。
『連絡ありがとうございます。いつかけてくれるかなと、ずっと待ってました』
彼の言葉に顔が赤く染まり、胸の鼓動が速くなる。
『豪雨の日、本当に助かりました。あの後、会社に戻る予定だったんですけど椎名さんに出会えなかったら、ずっとバス停に足止めされていたと思います。傘のおかげで書類もタブレットも濡れずに済みました』
「いえ、どういたしまして」
傘を渡してよかったなと改めて思う。
『あの、それで傘をお返ししたいんですけど……』
折りたたみ傘を差し出した時は、返ってくることなんて想像もしていなかった。
もう、二度と会うことはないだろうと思っていたし。
『それで、もしご都合がよければ、近いうちに会いたいなと思って』
その提案を聞いて、思わず息をのんだ。
胸がドクンと大きく鳴り、指先が少し震えたままスマホを握りしめる。



