運命の恋は、雨のバス停から


夕方になり、商談を終えた雨宮さんが再びロビーに姿を現した。
彼は受付カウンターの前で立ち止まり、入館証を差し出す。

「ありがとうございました」

笑顔で受け取ると、雨宮さんは私を見て「……あの、」と声をかけてきた。
低く落ち着いた声だけど、どこか緊張が混じっているような気がする。

私は突然のことに驚き、胸が高鳴る。
隣に座っていた奈子ちゃんがチラリとこちらを見たけど、目の前の電話が鳴り受話器を取っていた。

雨宮さんは名刺を取り出し、裏面にペンを走らせてから私に差し出す。

「傘を返したいので、もしよろしければ……こちらに連絡いただければと思います」

名刺を差し出す彼の指先が、わずかに震えているように見える。
私は名刺を受け取り、ゆっくりと頷いた。

「分かりました。今夜にでもご連絡しますね」

雨宮さんは一瞬目を見開き、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「待っています。それでは、失礼します」

小さく会釈すると、雨宮さんは踵を返して落ち着いた足取りでガラスの扉に向かい、その後ろ姿を見送った。