※一樹視点
○一樹の家
詩織がいつものように働いているのを、仕事をしながらこっそり見守る一樹。
モノローグ:少しずつだけど、彼女との距離が縮まっている気がする……。
ぐっと拳を握る一樹。
一樹(焦るな。彼女は俺のことを覚えていないんだから)
○回想:五年前 詩織の実家の近くの公園
モノローグ:あの頃、まだ新卒だった俺は、慣れない社会人生活をこなすので精一杯だった。
一樹(今日も先輩たちには調子よく使われたが、あの人たちが裏で俺のことを「コネ入社」だと叩いているのを聞いてしまった)
酔っ払ってよろよろと歩いている一樹。なんとかベンチに辿り着き、座り込む。
一樹(はー……。早く会社継ぎたいからって頑張ったけど、飲み会きっつ……)
一樹が酒の席で年配の男性相手にお酌し、勧められるがまま飲んでいる光景がカットイン。
一樹(それにしてもよく飲む人だったな……さすが経営者……)
げっそりしながら思い返していると気持ち悪さが込み上げてきて、水飲み場で水を飲む。途中で人の気配がして顔を上げる。
心配そうに一樹を見る、女子高生と目が合った。
思わず一樹が固まっていると、「大丈夫ですか?」と声をかけられる。
一樹「大丈夫です」
なんとかそう答えるが、ずいぶん年下の彼女に心配されたことが情けなく思え、慌てて顔を逸らして、ベンチになんとか戻る。
ごろりとベンチに寝転び目を閉じると、女子高生が身体を揺すってくる。
女子高生「あの、こんなところで寝たら危ないですよ」
一樹「ん……」
もうほとんど目が開かない一樹。
女子高生「起きてください」
一樹「もう少しだけ……」
女子高生「飲み過ぎでしょ……」
一樹「だよね。でも仕方ないんだ」
女子高生が露骨に顔を顰める。
女子高生「仕方ないって……お酒に飲まれるひとってそういうことばっかり」
険しい口調で言い放つ。
女子高生「そんなに言うなら飲んでも飲まれるなっての」
厳しい声が聞こえてきたのに、ふわりとマフラーがかけられる。
あたたかくて、思わずマフラーに顔をすりよせる一樹。
甘い香りが漂う。
その香りに導かれるようにそのまま眠りに落ちて――しばらく後。
一樹「さむ……」
酔いが覚めてきて起き上がる一樹。
自分にかけられたマフラーに気づく。
一樹(夢じゃなかったのか……)
身体を起こし、足元に落ちている定期入れに気づく。
定期にはカタカナで名前が入っている。
一樹「ムラセシオリ……」
モノローグ:昔から酒はそんなに強くない。でも業界の先人たちとやりあうにはどうしても酒の席が必要だった。マメに飲みの場に顔をだして、名前と顔を覚えてもらった。おかげで先代の祖父が引退するタイミングで、二十代のうちに会社を継ぐことができた。だから色々無茶もしたけど、後悔はしていない。でも――。
「そんなに言うなら飲んでも飲まれるなっての」
一樹の頭の中で、言われた言葉が響く。
一樹(確かに、その通りだよな……)
○現在:一樹の家
一樹、書斎で箱の中に大事に保管されているマフラーを見ている。
モノローグ:しばらくして、忘れ物を手元に置いたままなことに気付き、交番に届けに行った。定期はさすがに預けたけれど、マフラーは手放しがたくなってしまい、俺は手元に残した。いつか会えたなら、マフラーを直接返してお礼を言いたかった。今自分があるのは、きみのおかげだ、と。きみの喝が俺を踏みとどまらせてくれた、と。
仕事の合間に、公園の近くを何度も通りかかった。けれど全然会えなくて。
だから業者から届いた資料に彼女の名前を見たときは、驚いた。
村瀬詩織。同姓同名かと思った。でも――。
初対面のときの光景カットイン。
詩織「は、はじめまして。今日から家政婦としてお邪魔します村瀬詩織です!よろしくお願いします」
一樹「!!」
一樹(彼女だ――やっと、会えた)
一樹は詩織の働きぶりを思い返す。
モノローグ:真面目で丁寧な仕事。俺が思い描いていた彼女の印象通りだ。そう思うと、どうしても彼女を手に入れたくなった。好きだ。思い出の彼女ではなく、今俺の目の前にいる彼女が。だからどんなことをしても、俺のことを好きになってもらいたい、そう決意した。
○一樹の家
詩織がいつものように働いているのを、仕事をしながらこっそり見守る一樹。
モノローグ:少しずつだけど、彼女との距離が縮まっている気がする……。
ぐっと拳を握る一樹。
一樹(焦るな。彼女は俺のことを覚えていないんだから)
○回想:五年前 詩織の実家の近くの公園
モノローグ:あの頃、まだ新卒だった俺は、慣れない社会人生活をこなすので精一杯だった。
一樹(今日も先輩たちには調子よく使われたが、あの人たちが裏で俺のことを「コネ入社」だと叩いているのを聞いてしまった)
酔っ払ってよろよろと歩いている一樹。なんとかベンチに辿り着き、座り込む。
一樹(はー……。早く会社継ぎたいからって頑張ったけど、飲み会きっつ……)
一樹が酒の席で年配の男性相手にお酌し、勧められるがまま飲んでいる光景がカットイン。
一樹(それにしてもよく飲む人だったな……さすが経営者……)
げっそりしながら思い返していると気持ち悪さが込み上げてきて、水飲み場で水を飲む。途中で人の気配がして顔を上げる。
心配そうに一樹を見る、女子高生と目が合った。
思わず一樹が固まっていると、「大丈夫ですか?」と声をかけられる。
一樹「大丈夫です」
なんとかそう答えるが、ずいぶん年下の彼女に心配されたことが情けなく思え、慌てて顔を逸らして、ベンチになんとか戻る。
ごろりとベンチに寝転び目を閉じると、女子高生が身体を揺すってくる。
女子高生「あの、こんなところで寝たら危ないですよ」
一樹「ん……」
もうほとんど目が開かない一樹。
女子高生「起きてください」
一樹「もう少しだけ……」
女子高生「飲み過ぎでしょ……」
一樹「だよね。でも仕方ないんだ」
女子高生が露骨に顔を顰める。
女子高生「仕方ないって……お酒に飲まれるひとってそういうことばっかり」
険しい口調で言い放つ。
女子高生「そんなに言うなら飲んでも飲まれるなっての」
厳しい声が聞こえてきたのに、ふわりとマフラーがかけられる。
あたたかくて、思わずマフラーに顔をすりよせる一樹。
甘い香りが漂う。
その香りに導かれるようにそのまま眠りに落ちて――しばらく後。
一樹「さむ……」
酔いが覚めてきて起き上がる一樹。
自分にかけられたマフラーに気づく。
一樹(夢じゃなかったのか……)
身体を起こし、足元に落ちている定期入れに気づく。
定期にはカタカナで名前が入っている。
一樹「ムラセシオリ……」
モノローグ:昔から酒はそんなに強くない。でも業界の先人たちとやりあうにはどうしても酒の席が必要だった。マメに飲みの場に顔をだして、名前と顔を覚えてもらった。おかげで先代の祖父が引退するタイミングで、二十代のうちに会社を継ぐことができた。だから色々無茶もしたけど、後悔はしていない。でも――。
「そんなに言うなら飲んでも飲まれるなっての」
一樹の頭の中で、言われた言葉が響く。
一樹(確かに、その通りだよな……)
○現在:一樹の家
一樹、書斎で箱の中に大事に保管されているマフラーを見ている。
モノローグ:しばらくして、忘れ物を手元に置いたままなことに気付き、交番に届けに行った。定期はさすがに預けたけれど、マフラーは手放しがたくなってしまい、俺は手元に残した。いつか会えたなら、マフラーを直接返してお礼を言いたかった。今自分があるのは、きみのおかげだ、と。きみの喝が俺を踏みとどまらせてくれた、と。
仕事の合間に、公園の近くを何度も通りかかった。けれど全然会えなくて。
だから業者から届いた資料に彼女の名前を見たときは、驚いた。
村瀬詩織。同姓同名かと思った。でも――。
初対面のときの光景カットイン。
詩織「は、はじめまして。今日から家政婦としてお邪魔します村瀬詩織です!よろしくお願いします」
一樹「!!」
一樹(彼女だ――やっと、会えた)
一樹は詩織の働きぶりを思い返す。
モノローグ:真面目で丁寧な仕事。俺が思い描いていた彼女の印象通りだ。そう思うと、どうしても彼女を手に入れたくなった。好きだ。思い出の彼女ではなく、今俺の目の前にいる彼女が。だからどんなことをしても、俺のことを好きになってもらいたい、そう決意した。



