溺愛社長は秘密の恋をあたためる

○一樹が経営する居酒屋
「今年もお疲れさまでした!かんぱーい!」という掛け声とともに、グラスが合わさる音。
詩織は小さなグラスを手に、ひと口だけビールを飲む。
モノローグ:大嫌いなお酒の席。でも三嶋さんのおかげで、今日はだいぶリラックスして臨めている。

詩織、一樹の家で試飲したときのことを思い返し、顔を赤らめる。
詩織(結局何もなかった、けど……)

モノローグ:でも、私も三嶋さんのこと――。

「詩織、何飲む?」と隣の女子に話しかけられる。
詩織「あ、じゃあウーロンハイにしようかな」

試飲会の時の一樹の言葉がカットイン。
一樹「じゃあウーロンハイの注文が入ったら薄めで作るように指示しとくね」
詩織「ありがとうございます。でも大丈夫でしょうか、他の人が頼んだら……」
一樹「うーん。村瀬さんが頼むのは最初のほうだろうから、その時だけ薄くしてもらおうかな。そうだ、じゃあ薄いウーロンハイにはミントの葉を乗せておくようにするから。村瀬さんは飲む前にミントが乗ってるかどうか、確認して」
詩織「わかりました」

しばらくして、詩織の元にミントの葉の乗ったグラスが届く。
ほっとする詩織。
詩織(すごい。本当に指示してくれたんだ)
じんわりと喜びが広がる。
詩織、ひと口飲んで笑顔になる。


詩織「ちょっとお手洗い行ってくるね」
席を立って廊下へ。
男子学生がこそこそっと話して、うち一人が後をついてくる。
派手な見た目の、いかにもチャラそうな男子だ。
男子「村瀬!」
呼ばれて足を止める詩織。
男子「珍しいじゃん、飲み会来るの」
詩織「あ、うん。たまには」
男子「俺、村瀬と話したかったんだよな〜。来てくれて嬉しい」
詩織「そ、そうなんだ……」
男子「今日二次会あるらしいんだけどさ、良かったら抜けない?」
詩織「え?ご、ごめん私……」
詩織が戸惑っていると、店の入り口あたりが騒がしい。
店員たちが一斉に注目している。
「社長!」「お疲れさまです!」と次々声がかかる。
詩織がその声に入り口を向くと、いつかのようにばっちり髪型を整えスーツにコートを羽織った一樹が立っている。
二人、まっすぐに目が合うが、一樹はすぐに視線をそらしてしまう。
一樹、どこか顔が険しい。その目線は、詩織ではなく隣の男子学生に向いている。
詩織「三嶋……さん」
一樹、詩織のもとへまっすぐ歩いてくる。
目の前まで到着するとぺこりと頭を下げ、ぐいっと詩織を自分の方へ引き寄せてから手を離し、
一樹「この度はご来店ありがとうございます」
詩織「あ、その……こちらこそ、ありがとうございます」
詩織もつられたように深々とお辞儀をする。
二人同時に顔を上げ、再び目が合う。
お互い、自然と顔が綻ぶ。
一樹はスタッフに声をかけながら、詩織の横を通り過ぎる。
その時に「大丈夫?」と小さく声をかけてくれて、詩織は思わず一樹を見上げる。
一樹が心配そうな目を向けているから、詩織は小さく頷いてみせる。
すると一樹はほっと息をつく。
店長と思われる人物が「あれ、社長どうしたんですか?珍しいじゃないですか」と話しかける。
一樹は平然と、
一樹「繁忙期なので様子を見に来ました。どうですか?」
と答えているが、実は詩織の様子を見に立ち寄ったことは明白だ。
スタッフは特に気づかず「特に問題ありません。あ、でもせっかくなので……」と相談をもちかけ、一樹は仕事モードに。
そんな一樹の姿をちらりと盗み見る詩織。真剣な表情の一樹は家での様子とは違い、思わず見惚れてしまう。
男子学生が「村瀬?」と呼んで、我に返る。
詩織「ごめん、お手洗いいくね。あと今日は一次会で帰るから。ごめんなさい」
詩織はそう言って男子の前から立ち去る。
今度はその後ろ姿を、一樹がちらりと見ていた。

○忘年会後、店の前の道
「えー、帰っちゃうの」と友人たちが引き止めるのを、苦笑いで聞いている詩織。
詩織「ごめんね。明日もバイトだから……」
「少しでいいから行こうよ〜」なかなか二次会会場へ行かず誘ってくる友人たちに困っていると、
一樹「お客様!こちらお忘れものではないですか?」
店から出てきた一樹が、マフラーを手に詩織に呼びかける。
詩織(え……?)
一樹が手にしているのは見覚えのないマフラー。でも目配せされて、詩織はとっさに話を合わせる。
詩織「あ、はい!(友人に)ごめん、じゃあね!」
そう言って、一樹の方へ駆け出す詩織。一樹と一緒に店内へ戻ると、
一樹「大丈夫?」
詩織「すみません、ありがとうございます。二次会に誘われていたので助かりました」
一樹は詩織の顔を覗き込み
一樹「酔ってるわけでもなさそうだね」
詩織「はい、おかげさまで」
一樹「良かった」
一樹は微笑むと、手にしたマフラーを詩織の首に巻く。
詩織「え……?」
一樹「ちょっと遅いけどクリスマスプレゼント。いつも寒そうだなって思ってたんだ」
詩織「え、そんな……申し訳ないです」
一樹「返されても困るからね。タグも切っちゃったし」
詩織、マフラーに顔を埋める。
詩織「ありがとうございます。あったかい……」
一樹、その様子を見て顔を押さえる。
詩織「三嶋さん?」
一樹「ごめん。可愛くてどうしようって思ってたところ」
詩織「!?」
ストレートな言葉に詩織が言葉を失っていると、一樹は店の外を確認し、
一樹「お友達、みんな行ったみたいだね」
詩織「じゃあ私そろそろ……」
一樹「待って。送っていくから」
詩織「え?」
一樹「もう遅いし。さ、帰ろう」
一樹、詩織の手を握る。
奥のスタッフに「じゃあ出ます」と声をかける。その間も手は握ったままで。
そのまま店を出て、手を繋いだまま歩き出す二人。
詩織の胸がどきんと高鳴る。
詩織(どうしよう。大嫌いな飲み会なのに、今日はすごい幸せ、かも)
しかし二人が歩き去っていくのを、店内から冷たい目で見ている女性の姿があった。