推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 そして次の日、雑誌撮影の合間。
 控え室にはスタッフが用意した飲み物が並んでいた。


 ……あれ?
 コーヒーは置いてあるけど、
 朝倉 夏がいつも飲んでるコーヒーがない……

 “推し知識” が勝手に働く。
 灯里は自販機に走って、夏が好きなコーヒーを買ってきた。

 「朝倉さん、こちらどうぞ。
  お好きかなと思って……その……
  さっきネットで調べたら、よく飲まれてるって書いてて!」

 夏が差し出されたコーヒーを見て、目を細めた。


 「俺の好きなやつじゃん。
  ……へぇ。ネットで?」

 「は、はい!!ネットで!!
  ネットで見ました!!」

 推しにオタバレとか、恥ずかしすぎるので全力回避。

 蓮(小声)
 「いや絶対ネットじゃねぇだろ……」

 柊(小声)
 「灯里ちゃん分かりやすいなぁ」

 夏は飲み物を受け取って、灯里の顔をじっと見る。


 「……名前で呼んでいいよ」

 「えっ」

 「“夏”で」

 「な、夏さん……」

 「じゃあ灯里ちゃんも俺ら下の名前でいいからね〜!」

 「うん、仲良くしよ〜」

 「ありがとうございます。蓮さん、柊さん」

 そして、夏が撮影に戻る直前、灯里の横を通り、
 灯里の耳元で囁く。


 「灯里。
 ……ちゃんと“俺”のこと見てろよ」

 「っ……!」

 耳が熱い。

 心臓が破裂するかと思った。
 とてつもない破壊力だった。