推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜



 「……ええ。あの子、仕事は丁寧だったのよ。

 ただあの子は……マネージャーとしての境界線を
 見失ってしまったの」

 「……境界線ですか?」

 「夏の私物を盗んでいたの。
 彼への好意が暴走してしまってね。

 その好意が危険だと判断して、すぐ外したわ」

 前任の人が辞めて空いた
 Shorelineのサブマネージャーのポジション。

 まさかそんな理由があったなんて……



 「だから、これは念のため。
 あなたにはそんなことはしないと思っているけど──」

 杉本は灯里をまっすぐ見る。


 「夏を恋愛対象にしないで。
  感情を仕事に持ち込むのは危険だわ」

 「……もちろんです。
  そんなつもりは本当にないです。」

 杉本はその答えにだけ、やわらかく微笑む。

 「それなら安心したわ。
  あなたには期待しているから。」



 私が朝倉 夏を好きになるなんて、ありえない。
 “推し”は恋愛対象じゃないし……
 
 それにもう恋愛をするつもりもない。

 私には、過去の思い出と息子の颯真がいる。
 それだけで、今の私には十分だから。

 今の私はただ仕事として、マネージャーとして誰かを支えていきたいだけだ。