推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 「結城さん、ちょっといいかしら? こっちへ」

 初対面の緊張がまだ残る中、
 灯里は杉本から小さな資料室へ案内される。

 杉本は鍵をかけ、棚の奥から黒いファイルを取り出した。

 表紙には赤文字。

 《Shoreline — 極秘管理ノート》
 《社外持ち出し禁止》

 「……ご、極秘……?」

 「表向きの“プロフィール資料”とは別よ。
  これは“本当の彼ら”が書かれてる。
  マネージャーしか見られない情報」

 灯里はページをそっと開いた。

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 【朝倉 夏 — NG項目】

 ・“家族”の話題
 ・女性との絡み・匂わせ対応NG
 ・作曲中に部屋へ入らない(チョコ必須)
 ・スケジュール遅延
 などなど

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 灯里は一番上の“家族”に視線が止まった。

 「家族……?」

 「夏はね、“家族”の話題を極端に嫌がるの。
  インタビューでも地雷になるから、質問は必ず事前にチェックして」

 「……わかりました」

 「このshoreline専用“極秘管理ノート”の内容は、
  必ず覚えておいてね」

 「はい。それにしても……すごく細かい……。
  前任の方が作ったんですか?」

 灯里がそう言った瞬間、
 杉本は少しだけ表情を曇らせる。