推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


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 再び車に戻り、帰路につく
 灯里は夏から聞いた過去や、バンドの由来を思い出していた。

 夏には誰もいない家に帰る夜があっても、
 別の場所では「おかえり」と迎えてくれる人たちがいたこと。
 血のつながりはなくても、
 温かく迎えてくれる場所や、幼馴染とのバンド…
 そこが“帰ってきていい場所”になっていたこと。

 ——この人は、孤独しか知らなかったわけじゃない。

 灯里は、そう思った。

 だから夏の音楽は、
 ただ寂しさを吐き出すだけじゃなく、
 どこかあたたかくて、戻る場所を残しているのだと。

 Shoreline。

 海と陸の境目で、
 行き来できる場所。
 離れても、戻ってこられる線。

 その名前に込められた意味を知って、
 灯里の胸の奥が、静かに揺れた。

 ——この人は、
 孤独を抱えながらも、
 思っていたよりずっと優しい場所で、
 音楽を作ってきたんだ。

 私も夏が大切にしてきたこの場所“Shoreline”のことを、全力で守りたい。

 そして……、この人のことも。

 灯里はルームミラーに映る、後部座席で静かに目を閉じている夏を見つめた。